今注目の民事信託②~親が認知症になってしまう前に~
前回は民事信託の概要・基本的な内容について説明しましたので、民事信託がどのようなものかある程度はわかって頂けたと思います。
では、今回は実際に事例を用いて、民事信託がどのような状況で活用出来るかを紹介していきます。
家族構成
続柄 | 状況 | 年齢 | 住まい |
父 | 健康 | 82歳 | 施設 |
母 | 認知症気味 | 82歳 | 施設 |
長女 | 相談者 | 53歳 | 持家(近隣) |
次女 | 50歳 | 持家(遠方) | |
次女の配偶者 | 50歳 | 持家(遠方) |
父 資産状況
資産(固定資産評価) | |
土地 | 1千500万円 |
建物 | 600万円 |
預貯金 | 3千万円 |
資産合計 | 5千100万円 |
母 資産状況
資産(固定資産評価) | |
土地 | 1千万円 |
建物 | 400万円 |
預貯金 | 2千万円 |
資産合計 | 3千400万円 |
※土地・債務評価減等は入れていない。
相談者の要望・留意事項
①自宅が空き家となっているため、しかるべきときに売却し、両親の施設や病院代に充てたい。
②相続税対策をしたい。
③万が一、長女が管理できなくなった場合、次女が管理できるようにしたい。
④姉妹は両親の財産は親の介護費用に使い、もし両親他界後に財産が残ったら2人で等分にしたいと考えている。
⑤母が認知症気味なので早く対策をしたい。
⑥現在は長女が通帳などの管理を行っている。
民事信託(母)
委託者→母
受託者→長女
後継受託者→次女
※長女に万が一の場合があった場合には次女が信託を引き続き行うための備え。(③の対策)
受益者→母
第二受益者→父
※母の他界で受益権が父に移行し、信託契約が継続します。
上記の関係性で信託契約を結びます。
このように母の体調変化があった後も、財産の管理を継続し、母が他界後も信託スキームを継続する内容とする民事信託にします。
このような内容の信託契約を結び、不動産の名義を生前に受託者長女に変更し(①の対策)、受託者として名義を預かることで、今後財産管理の継続を長女が母のために行うことができ(⑥の継続)、母の他界後には、父が財産を引き継ぎ、その後父が他界した場合、又は父が母よりも先に他界していた場合には子2名が引き継ぐことができます。(④の対策)
仮に母が認知症になったとしても、資産が凍結されず運用することができるということです。(⑤の対策)
生命保険
この信託に加え、預貯金の一部を一時払いの終身保険とし、受取人を子2名にすることで相続対象額が減額するため、節税することができ、あるいは、相続財産を基礎控除額4200万円以下にできれば、相続税の申告自体を不要とすることができます。(②の対策)
※基礎控除額=(3千万円+600万円×法定相続人の数)により算定しています。
※この事例の場合には、死亡保険金の1000万円(法定相続人2名×500万円)までは非課税です。ただし、この保険の非課税枠を使えるのは「保険契約者=死亡者」、「保険金の受取人=相続人」という条件付きです。この条件を満たしていないと、所得税(住民税)や贈与税が課せられます。
信託する財産の指定
民事信託の特徴としてもう1つ大きなメリットがあります。
それは、信託する財産の範囲を指定することができるのです。
例えば、上記の母親は2千万円の預金を持っています。この2千万円のうち1千万円だけを信託の対象とすることが可能です。
なので、全額を子に任せるのは不安な人でも信託の対象とする財産を指定することが可能なので心配はありません。
まとめ
生前対策・相続対策には色々な手段があります。
遺言・生命保険・生前贈与・相続時精算課税・成年後見など制度・手段によって対策の仕方は変わり、結果的に相続税・贈与税の金額も大きく変わります。
仮に親が認知症になってしまい、資産が凍結されてから行動をしても手遅れな状況になってしまうことも考えられるということです。
相続税対策は、家族と生前に時間を使って話し、遺産分割を全員が納得するような形にすることが一番大切だと思いますので、じっくり時間をかけて早めに生前対策に取り込むことを推奨します。
相続税の申告・生前対策・相続財産シュミレーションを検討される場合は、名古屋市東区の会計事務所、末松会計事務所にお任せ下さい。