COLUMN経営コラム

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クラウド会計ソフトが出力する資料の有効活用法|②決算予測の基本

2021.11.25

税務クラウド

前回は、クラウド会計ソフトから出力できる表の一つである損益計算書の見方について説明しました。

本記事ではそれを発展させて、決算予測の方法について基本を学んでいきます。

クラウド会計システムの多くは決算の予測または予算管理機能を備えています。また、顧問税理も制度の高い決算予測を立ててくれることと思います。

決算予測の基本的な考え方を知っておくと、システムや税理士が算出した決算予測をより理解することができます。

決算の予測方法には色んな考え方がありますが、この記事で紹介するのはごく簡単な、基本中の基本です。

とは言え、充分に実践的な内容となっています。どうか最後までお読みいただき、実際に自分の会社の決算予測を行ってみるのもよいでしょう。

決算予測とは

決算予測とは、決算期よりも前に決算の内容を予測することです。

中小企業が行う決算予測は通常、決算でどのくらい利益(または赤字が出るか)を予測します。

決算予測は、経営者が決算賞与の金額を決めたり、納税資金を準備するために行います。

決算予測の手順

決算予測のスタートラインとなるのは、確定している月次決算の損益計算書です。

決算予測はどんな時期にもできますが、だいたいその事業年度が半分(通常6ヶ月)以上過ぎてからに行います。

それでは、いよいよ決算予測を行いますが、その手順は以下のとおり。

① 残る月の売上高を予測する

② 売上原価・粗利益を予測する

③ 経費を予測する

④ 特殊事情を考慮し、集計する

非常にシンプルな予測方法です。この説明では不十分ですので、以下、実例をあげながら解説していきます。

解説では、12月決算の飲食業の会社を想定します。9月までは月次決算ができており、その数字は以下のとおり。

9月まで合計
金額構成比
売上高15,000,000円100%
売上原価5,250,000円35%
粗利益9,750,000円65%
一般管理費9,000,000円60%
営業利益750,000円5%

この表は損益計算書のダイジェスト版というか、細部をかなり省略していますが、簡単な決算予測のためにはこれで充分です。

それでは見ていきましょう。

① 売上高の予測

売上高の予測については、経営者のあなたが誰よりもよく分かるのではないでしょうか。

今回は、10月と11月はこれまで通りに推移し、12月は忘年会などで1割増しの売上となるという予測を立てました。

10月・11月の売上高は、15,000,000 ÷ 9ヶ月 =1,666,666円。12月は1,666,666 × 1.1 = 1,833,333円となります。

上の表を下のように拡張し、数字を記入していきます。

9月まで合計 10月 11月 12月 決算予測
金額 構成比
売上高 15,000,000 100% 1,666,666 1,666,666 1,833,333 20,166,665
売上原価 5,250,000 35%
粗利益 9,750,000 65%
一般管理費 9,000,000 60%
営業利益 750,000 5%

大変シンプルな考え方ということがお分かりいただけたと思います。

売上高は、例えば建設工事業ならば受注金額がある程度わかっていますから、その金額を記載するなど、業種・業態に応じて予測を立てるようにしましょう。

② 売上原価・粗利益の予測

売上高の次は、売上原価と粗利益の予測です。

粗利益 = 売上高 - 売上原価 ですから、どちらか片方を求めれば自動的にもう一方も予測できます。

業種にもよりますが、粗利益率はだいたい一定していることが多く、本例の飲食業にもそれが言えます。

9月までの粗利益率を見てみると65%となっていますので、10~12月も同様と考えてよいでしょう。

つまり、10・11月は1,666,666 × 65% = 1,083,333円の粗利益、1,666,666 - 1,083,333 = 583,333円の売上原価となります。

12月も同様に計算して、ここまでの結果は以下のとおり。

9月まで合計 10月 11月 12月 決算予測
金額 構成比
売上高 15,000,000 100% 1,666,666 1,666,666 1,833,333 20,166,665
売上原価 5,250,000 35% 583,333 583,333 641,666 7,058,332
粗利益 9,750,000 65% 1,083,333 1,083,333 1,191,667 13,108,333
一般管理費 9,000,000 60%
営業利益 750,000 5%

粗利益が一定していない場合もあります。

建設工事業などでは、工事予算を合計して原価とした方が正確な予測が可能です。

また、サービス業でも理美容業などは売上の増減に関わらず仕入高はほぼ一定である場合があります。この場合は、9月までの売上原価の平均値を10~12月の原価とし、売上から差し引いて各月の粗利益を予測します。

③ 経費の予測

経費(販売費及び一般管理費)の予測は結構面倒なのですが、さいわいにも本例の会社は毎月ほぼ一定の経費となっていました。

したがって9月までの一般管理費の平均、9,000,000 ÷ 9 = 1,000,000円を各月の経費として予測を立てます。

営業利益 = 粗利益 - 一般管理費 ですから、営業利益の計算も同時に終わり、これで一応の決算予測ができました。

9月まで合計 10月 11月 12月 決算予測
金額 構成比
売上高 15,000,000 100% 1,666,666 1,666,666 1,833,333 20,166,665
売上原価 5,250,000 35% 583,333 583,333 641,666 7,058,332
粗利益 9,750,000 65% 1,083,333 1,083,333 1,191,667 13,108,333
一般管理費 9,000,000 60% 1,000,000 1,000,000 1,000,000 12,000,000
営業利益 750,000 5% 83,333 83,333 191,667 1,108,333

経費が一定していない場合には、その原因を考えて対応します。

一例として、歩合制の給与であるため、人件費が売上高と連動している場合。このようなときは給与を固定給と歩合給に分け、歩合給 = 売上高 × ◯%のように計算すると、かなり正確に計算できます。

④ 特別な事情を反映する

決算時の特別な事情とは何でしょうか?

今回例にあげた会社では、1,108,333円の利益予測をみて、年末にアルバイトの人たちに賞与を出すことにしました。

全額で20万円のボーナスです。

すると、12月の一般管理費が20万円増えることになり、最終的な決算予測は次のようになります。

9月まで合計 10月 11月 12月 決算予測
金額 構成比
売上高 15,000,000 100% 1,666,666 1,666,666 1,833,333 20,166,665
売上原価 5,250,000 35% 583,333 583,333 641,666 7,058,332
粗利益 9,750,000 65% 1,083,333 1,083,333 1,191,667 13,108,333
一般管理費 9,000,000 60% 1,000,000 1,000,000 1,200,000 12,200,000
営業利益 750,000 5% 83,333 83,333 191,667 908,333

以上が、決算予測の概要です。

基本的な考え方はとてもシンプルながら、実際に自分の会社に適用するとなると、悩みどころが多いと感じられたのではないでしょうか?

結論をいってしまうと、まさにその悩みどころに税理士の出番があるのです。

税理士による決算予測

税理士が行う決算予測も、基本的には上で紹介したような方法で行います。

専門家として決算予測の精度を上げるために、様々な工夫を行うのが税理士の仕事です。

例えば売上原価の算出において、粗利益率によるべきか、これまでの平均を採用すべきかだけではなく、税理士はより多くの選択肢を持っています。

人件費や各種経費についても同様です。

税理士が用いるテクニックの一部をご紹介しましょう。

  • 全体ではなく一部の(直近3ヶ月などの)平均を取る
  • 必要に応じて前年同月の比率や金額を用いる
  • 売上高などに対する相関関数を導出して費用などを予測する
  • etc…

これらの中からどれを選ぶべきか、業種・業態だけで決まってくるのではなく、個別の会社の状況で変わります。

税理士は知識や経験から、最適な計算方法を選び出し、精度の高い決算予測を行うことができます。

本格的な決算予測は税理士に依頼を!

本記事では決算予測の基本について書いてきました。

ここで得た知識を用いて、ぜひ、会社の決算予測に役立てて下さい。

そうして自分で計算した決算予測と、税理士に作成してもらった予測とを比較してみることをおすすめします。

比べてみると、税理士の決算予測がどんなに工夫されているかが分かります。

ご自身で作成した決算予測は、正しいかどうか確信が持てないことと思います。最終的にはプロである税理士に決算予測を頼るようにしましょう。

今回は営業利益の予測までを紹介しました。営業外収入と営業外支出を加味した経常利益についても考え方は同様です。
気になる税金の予測については、次回の記事で案内したいと思います。
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この記事の執筆者

末松和真

税理士法人末松会計事務所代表社員。税理士。 (株)FLAGSコンサルティング 代表取締役 税理士として税務・会計はもちろんの事、経営支援・クラウド会計支援・融資実行・補助金に強く、幅広い知識とサービスで企業の成長を支援している