COLUMN経営コラム

COLUMN経営コラム

クラウド会計ソフトが出力する資料の有効活用法|③法人税等の予測
2021.11.30
税務クラウド
これまで2記事にわたって、クラウド会計ソフトなどから出力できる資料のうち損益計算書の活用方法について説明してきました。
クラウド会計ソフトが出力する資料の有効活用法|①残高試算表(損益計算書)では、損益計算書の着目点について解説しています。
クラウド会計ソフトが出力する資料の有効活用法|②決算予測の基本では、損益計算書から決算予測を作成する方法を説明しました。
第三弾となる本記事では、法人税等を予測する方法を詳しく説明します。
税金の予測までを行ってはじめて、決算予測が完成すると言ってもいいでしょう。
- 利益に対して税金が多いような気がする
- 納税資金をどのくらい準備すればよいかわからない
- 早めに税額を知り、節税対策などを計画したい
といったことでお悩みの経営者の方は、本記事で税金予測の基礎を学んで税金対策や納税の準備にお役立ていただけると思います。
▼ この記事の内容
法人税等とは
法人税等とは、法人の利益(課税所得といいます)に課せられる税金のことです。
法人三税
法人の課税所得(≒利益)に課せられる税金は以下の3つです。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税(及び特別法人事業税)
この合計が法人税等と言われるものです。これらを合わせて法人三税と呼ぶこともあります。
経常利益・税引前当期純利益|前記事の補足
前回の記事では「営業利益」までの予測の立て方を案内しました。
実際の決算では、営業利益に営業外収入と営業外支出を加減した「経常利益」、更に特別利益と即別損失を加減して「税引前当期純利益」も計算します。
経常利益( = 営業利益 + 営業外収入 - 営業外支出)
経常利益は、営業利益に営業外収入を足して、営業外支出を引いた金額です。
営業外収入の主なものは受取利息です。こちらは中小企業の場合、少額と考えられますので、決算予測時には無視してもよいでしょう。
その他、家賃収入など営業と関わりのない収入を雑収入としますが、これも営業外収入になります。
営業外支出の代表は支払利息。借り入れに対する利息です。銀行借入れでは返済予定表に利息の金額が載っていますので、予測は簡単です。
税引前当期純利益( = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失)
税引前当期純利益は、税金計算のもととなる利益です。上述の経常利益に特別利益を加え、特別損失を引いて計算します。
特別利益や特別損失が発生するのは、設備などの固定資産を売却したときなどです。特別な取引に関することですので、今回は扱いません。
前提となる決算予測
法人税等を試算する前に、前提となる税引前当期純利益を決めておきましょう。
前回記事の営業利益からスタートします。追加の情報は以下のとおり。
- 営業外収入はなし(預金利息は少額であるため無視する)
- 借り入れの利息は今年度合計で300,000円の予定
これらを加味すると、法人税等を試算する前の決算予測は以下のようになります。
決算予測 | ||
---|---|---|
売上高 | 20,166,665 | |
売上原価 | 7,058,332 | |
粗利益 | 13,108,333 | |
一般管理費 | 12,200,000 | |
営業利益 | 908,333 | → 前回記事の営業利益 |
営業外支出 | 300,000 | → 支払利息 |
経常利益 | 608,333 | |
税引前当期純利益 | 608,333 |
法人税等の予測
決算予測の目的の一つが納税資金の準備であることを考えると、税金がいくらになるかの試算は非常に重要です。
現在、多くのクラウド会計システムでは税金の試算機能を備えていないか、あっても簡易的なものです。
では、法人税等の正しい予測は現在のクラウド会計ソフトでも困難なほど複雑なのでしょうか?
答えはイエス。法人税等の計算は非常に複雑で、税理士などの専門家に委ねるしかないのが実情です。
しかし実は、中小企業の場合、ある程度の予測は専門家でなくても可能です。
それでは、実際に法人税等を試算してみましょう。
ここでは、下記の税率で計算します。中堅都市の資本金1千万程度の中小企業(営業成績は決算予測のとおり)を想定しています。
税の種類 | 税率 | 課税の対象 | |
---|---|---|---|
法人税 | 法人税 | 15.0% | 課税所得 |
地方法人税 | 10.3% | 法人税額 | |
法人住民税 | 法人県民税 | 1.0% | 法人税額 |
法人市民税 | 6.0% | 法人税額 | |
法人事業税等 | 法人事業税 | 3.5% | 課税所得 |
特別法人事業税 | 37.0% | 法人事業税額 |
表面税率による試算
表面税率とは、上の表に示した税率の合計です。
それぞれの課税の対象が異なるため、最初に全ての税率を課税所得からの計算に直します。
その合計が表面税率です。計算を以下に示します。
税の種類 | 税率 | 計算 | |
---|---|---|---|
法人税 | 法人税 | 15.000% | 課税所得に対する法人税率 |
地方法人税 | 1.545% | 法人税率 × 地方法人税率 | |
法人住民税 | 法人県民税 | 0.150% | 法人税率 × 法人県民税率 |
法人市民税 | 0.900% | 法人税率 × 法人市民税率 | |
法人事業税等 | 法人事業税 | 3.500% | 課税所得に対する法人事業税率 |
特別法人事業税 | 1.295% | 法人事業税率 × 特別法人事業税率 | |
表面税率 | 22.39% | 上記の合計 |
実際の計算では、会社の所在地の税率やその時の法人税率などを使用しましょう。
各種税率は、自治体や国税庁のHPなどで確認できます。
税引前当期純利益に表面税率を掛けると、法人税等の試算ができます。
表面税率による試算結果は、
となります。
実効税率による試算
実際の法人税等の計算では、上記の法人事業税および特別法人事業税を課税所得から差し引くことができます。
これを加味したものが実効税率です。実効税率によって税金を計算すると、
税の種類 | 税率 | 計算 | |
---|---|---|---|
法人税 | 法人税 | 14.314% | 法人税率 ÷(1 + 法人事業税率 + (法人事業税率 + 特別法人事業税率))…① |
地方法人税 | 1.474% | ① × 地方法人税率 | |
法人住民税 | 法人県民税 | 0.143% | ① × 法人県民税率 |
法人市民税 | 0.859% | ① × 法人市民税率 | |
法人事業税等 | 法人事業税 | 3.340% | 法人事業税率 ÷(1 + 法人事業税率 + (法人事業税率 + 特別法人事業税率))…② |
特別法人事業税 | 1.236% | ② × 特別法人事業税率 | |
実効税率 | 21.366% | 上記の合計 |
実効税率による法人税等の試算額は、
です。
実際の税額
上記の2パターンの計算結果は、ほとんど変わりませんでした。
一般的に利益が大きいほど、両者の開きは大きくなります。
実効税率による計算のところでは「実際の法人税等の計算では」と説明ましたので、こちらがより正確な税金予測になっているとお考えでしょう。
ところが、実際の納税額はおよそ次のようになるのです。
税の種類 | 実際の税額 | 実効税率による計算 | |||
---|---|---|---|---|---|
税額 | 税率 | 税額 | 税率 | ||
法人税 | 法人税 | 88,000 | 14.466% | 87,076 | 14.314% |
地方法人税 | 9,000 | 1.479% | 8,967 | 1.474% | |
法人住民税 | 法人県民税 | 21,800 | 3.583% | 870 | 0.143% |
法人市民税 | 55,200 | 9.074% | 5,226 | 0.859% | |
法人事業税等 | 法人事業税 | 21,200 | 3.485% | 20,318 | 3.340% |
特別法人事業税 | 7,800 | 1.282% | 7,519 | 1.236% | |
合計 | 203,000 | 33.370% | 129,977 | 21.366% |
13万円だと思っていた税金が実際は20万円を超えていたら「かなり税金が多かった」という印象を持たれると思います。
では、どこが違うのでしょうか?
黄色でマークした部分が大きく違っています。他は誤差と言っていいでしょう。
均等割とは
上の説明では、実際の納税額と実効税率による試算との違いが73,023円(203,000円 – 129,977円)ありました。
当初の予定額129,977円からするとなんと56%も増加しており、捨て置けない金額です。
なぜ、こんなにも予測がずれてしまうのか。それは均等割を計算に入れていないからです。
均等割は、法人住民税の一部を構成するもので、所得(≒利益)に関わらず、会社の資本金の額や従業員数に応じて一定額を収めるよう定められている税金です。
均等割の金額は、市区町村や都道府県それぞれで定められています。
例えば名古屋市では、71,000円(市:50,000 + 県:21,000円)~3,840,000円(市:3,000,000円 + 県:840,000円)の間となっています。
また、名古屋市などの政令指定都市では、区ごとに支払う必要がありますので、2つ以上の区に店舗や事業所を持っている場合は、それぞれに市民税の均等割を支払わなければなりません。
上の例では、均等割の71,000円を計算に入れていなかったために大きな予測のズレが生じてしまったのです。
その他の税金予測のズレの要因
他に税金予測上のズレを生ずる要因として、交際費の一部が税金計算上費用として認められないなどの「税制上の課税所得と経理上の利益の違い」があります。
しかし、小規模の会社の場合であればあまり問題にならないことが多いと思います。
小規模企業における税金の予測では、むしろ均等割の税額に占める割合が大きいことが予測の混乱のもとである場合がほとんどです。
まとめ:より正確な税金予測|正しい予測は税理士に依頼しましょう
上記をまとめると、精度の高い税金予測の方法は以下のとおり。
これでおおむね正しい税額予測ができるはずです。
しかし、正確な税金の計算はもっと複雑なものです。上で説明したような予測はあくまで概算であると考えましょう。
納税資金の準備などのためにより正確な税額予測が必要な場合は、顧問税理士に依頼するのが最適です。
精度の高い決算予測・税額予測をぜひ、経験豊富な末松会計事務所にお任せ下さい。
平日9:00~17:30の間受け付けております。経験豊富なスタッフが丁寧にお悩みをお聞きします。