COLUMN経営コラム

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経営分析の基本|無料の統計データを上手に活用する方法!

2022.01.21

税務経営

起業家・経営者によって、企業の目的・目標は様々です。

ですが、どのような目標を掲げたとしても、利益を得ることは非常に大切です。

なぜなら、どんな夢や目標にもお金が必要となるから。よって経営者は常に利益を追及しなければなりません。

利益を上げるには、売上を増やしたり費用を削減するなど色々な手段が考えられます。どの手段をどの程度の規模で実施するのかが、経営者の手腕によるところとなります。

どのような手段を選び、実施するか。その判断に欠かせないのが経営分析です。経営分析(財務分析とも言います)は、決算書などの資料から自社の状態を客観的に捉える作業のこと。主に数値を扱う作業になります。

本記事から数回にわたって、経営分析の基本を説明します。

  • 税理士や税理士事務所の担当者が経営分析の説明をしてくれるが、いまいち理解できていない。
  • 自分の視点でも経営分析をやってみたい。
  • 同業他社と比較して、自社の問題点を検討してみたい。

という方に、ぜひお読みいただきたいと思います。

本記事ではまず最初に、無料で利用できる同業他社データ(政府統計)の利用方法を紹介します。

近隣の同業他社と、経営指標がどのように違っているのかをみて、会社の経営方針策定にお役立ていただけたら幸いです。

クラウド会計の財務分析

マネーフォワードをはじめとするクラウド会計システムには、財務分析の機能が搭載されています。

例えば、マネーフォワードクラウド会計ではこのように業界平均値との比較もできるようになっています。

これは非常に便利な機能です。上手に使えば会社の課題や利点を素早く導き出すことが出来るでしょう。

反面、地域性や事業個別の事情、規模などを鑑みずに全国平均を意識しすぎると、かえって経営判断を誤ってしまうリスクもあります。

経営指標(財務指標)とは?|経営成績をはかるものさし

経営指標は、財務指標とも呼ばれます。会社の経営成績や財務状態をはかるための基準となる数字です。

経営指標(財務指標)と言われるものは、「○○率」となっているものがほとんどです。例えば、

  • 粗利益率:粗利益 ÷ 売上高
  • 営業利益率:営業利益 ÷ 売上高
  • 付加価値率:付加価値額 ÷ 売上高

といった具合。損益計算書から導き出す経営指標は、たいていの場合、分母が「売上高」となります。

「粗利益が〇万円」というのでは、他社との比較が困難です。パーセント表示にすることで、同業種や同規模・同地域といったカテゴリーでの他社比較が簡単にできるようになるのです。これが経営指標の効果・目的です。

同業他社との比較|信頼度の高い情報を探すことが大切!

それでは、あなたの会社の粗利益率が〇%であったとき、それをどう評価すればよいのでしょうか?

そのときに一つの指標となるのが、同業他社の経営指標です。

「○○業 粗利益率」などといったワードで検索すれば、インターネット上で平均的な経営指標を知ることが出来ます。

しかし、ネット上で見つかる情報は数多くあり、どれが信頼に値するものであるか、判断が難しいところです。

大事な経営判断の基準とするものですから、なるべく信頼度の高い情報を探すようにしましょう。

信頼度ではNo1!|政府発行の統計情報を利用する

最も信頼度が高いのは公共機関の統計情報です。中でも政府が発行している統計情報は無料で利用できることもあり、最もアクセスしやすい情報ソースです。

情報の精度や量は申し分ないのですが、その分、情報検索の難易度が高いことが難点ではあります。

政府・官公庁が発行している経営指標の統計資料のうち、特に利用価値が高いのは以下の2つです。

中小企業実態基本調査

中小企業全般に共通する財務情報、経営情報等を把握するために、中小企業庁が実施している統計調査です。(公式HPはこちらです。)

毎年実施されているため、最新に近い情報が手に入りやすいのがメリットです。

反面、発表されている統計情報は基本的に全国集計のみとなり、ローカルな情報を用いた地域性を考慮した分析には向きません

中小企業実態基本調査の中では、以下のものが有用です。

「売上高及び営業費用(産業別・従業者規模別表)」

建設業やサービス業など11の業種毎に、規模を従業者数に応じて個人企業から50人超規模に分けて、売上高や売上原価および各種費用を集計したものです。

令和2年の資料はこちらのページからエクセルファイルをダウンロードできます。

「売上高及び営業費用(産業中分類別表)」

上記の表における業種を更に細かく分類したものです。そのかわり、事業規模での分類はありません。

令和2年分は法人企業個人企業に分けてあり、それぞれエクセルファイルをダウンロードできます。

(※)ダウンロードした資料の利用方法については本記事後半で説明しています。

経済センサス‐活動調査

総務省が中心となって、5年ごとに行われる事業活動の実態調査です。

現在、最新の情報が平成28年のものであり、最新というには少し古いかもしれません。次回は令和3年に調査が行われます。

都道府県ごと、市区町村ごとなどエリア的に細分化されたデータが手に入ります。

特に以下のものが利用しやすいでしょう。

売上・費用など(中分類・都道府県)

正式名称は「企業産業(中分類),単一・複数(2区分)別企業等数,事業所数,従業者数,売上(収入)金額,費用総額,主な費用項目,付加価値額,設備投資額,1企業当たり売上(収入)金額及び1企業当たり付加価値額―都道府県,大都市圏」といいます。

細かい(130種類の)業種別に、都道府県ごとの売上や費用の集計情報が分かります。各地区の大都市圏別の集計も載っているため、こうした地域で事業を営んでいる場合には更に有効です。

ダウンロードはこちらから。形式はcsvファイルです。

売上・費用など(大分類・市区町村)

エリアを更に細かく、市区町村別に分けた統計資料です。ただし、業種分類は11種の大分類となります。正式名称は「企業産業(大分類),単一・複数(2区分)別企業等数,事業所数,従業者数,売上(収入)金額,費用総額,主な費用項目,付加価値額及び設備投資額―市区町村」です。

csvファイルでダウンロード可能ですが、各都道府県別に掲載ページが異なります。こちらのページにある「+都道府県別結果」の「+」部分をクリックすると各都道府県が表示されますので、目的の都道府県のページに移動し、移動先のページ下部にある「表番号3番」のcsvファイルをダウンロードしてください。

(※)ダウンロードした資料の利用方法については以下で説明しています。

実例:資料を検索して目的の数字を導き出す

上では、資料の紹介とダウンロードの方法を簡単に説明しました。これから実例をあげて詳しい資料の入手方法や分析方法を見ていきましょう。

「名古屋市周辺の飲食業において、人件費率がどのくらいになっているか」を調べてみます。

ここでは、経済センサスの資料をダウンロードして調査します。

まず、上記で紹介した「売上・費用など(中分類)」を見てみましょう。

こちらのページからcsvファイルをダウンロードして、Excel等のソフトで開き、目的の情報を探してもよいのですが、ここではサイトのデータ表示機能を利用してみます。

同じページで、「DB」と書いてある紫色のボタンをクリックすると、データを直接参照することが出来ます。

ページ左側の「表示項目選択」をクリックして、情報を絞り込みます。

ここでは、以下のように設定してみましょう。

表章項目
  • 売上高(収入)金額
  • 主な費用項目 給与総額
H28_単一・複数
  • 単一事業所企業
H28_産業分類
  • 76 飲食店
H28_地域
  • 中京大都市圏

そうすると、以下のような表が表示されるはずです。

単一事業所企業
売上(収入金額)【百万円】主な費用項目 給与総額【百万円】
76飲食店441,48594,193

これによると、人件費率は、94,193 ÷ 441,485 ≒ 21.3% となります。

この統計情報サイト(e-stat)は、総務省統計局が運営するサイトで、ほぼ同じ操作方法で多種多様な情報の検索・抽出が可能です。

情報・データはその解釈が重要!

本記事では、政府が発行している統計情報を無料で検索・利用する方法について説明しました。

しかし例えば上の例で、自社の人件費率が平均と乖離しているからといってすぐに是正すべきかどうかの判断は難しいところです。

地域の平均よりも高い・低いと一喜一憂すべきではありません。こうしたデータ・情報はどう解釈するのか、どのような判断・行動に結びつけるのかが非常に重要です。

税理士はこういったデータの収集・活用に長けている頼れる専門家ですので、詳細なデータ分析は顧問税理士に依頼するのがベストとなります。

次回からは、より具体的な経営指標について、どのような資料に注目して考えていけばよいのかを詳しく解説していきます。お楽しみに!

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この記事の執筆者

末松和真

税理士法人末松会計事務所代表社員。税理士。 (株)FLAGSコンサルティング 代表取締役 税理士として税務・会計はもちろんの事、経営支援・クラウド会計支援・融資実行・補助金に強く、幅広い知識とサービスで企業の成長を支援している