粗利益率の地域性について|統計データの上手な利用方法
2022年2月10日 6:09 am

粗利益率の地域性について|統計データの上手な利用方法

前回の記事まででは、粗利益率について以下のような説明をしてきました。

  • 粗利益率の基本的な計算方法や考え方について(こちらを参照)
  • 粗利益率の業界平均の調べ方、売上規模に応じての補正方法(該当記事はこちら

おさらいのために、これまでの内容を簡単にまとめたのが以下の一覧です。

  • ① 粗利益率は、( 売上高 – 売上原価 ) ÷ 売上高 で求められる。
  • ② 実際の経営判断でより大切なのは粗利益であり、粗利益は、自社の過去の数値や同業他社との比較のために用いるべき目安の数値である。
  • ③ 同業他社との比較のために用いる、粗利益率の業界平均値は、経済センサスの小区分データから得られる。
  • ④ 粗利益率の業界平均値は、事業規模によって異なるため、適切な補正が必要。
  • ⑤ 粗利益率の業界平均値は、地域によっても異なるが、地域による変動は基本的に無視してよい。

本記事では、⑤「地域による補正は基本的に無視してよい」ことの理由について説明します。

その中で、経済センサスのような統計データの上図な扱い方について、詳しく説明しています。

また、次の記事では、これまでに学んだ粗利益率の業界平均値をどうやって利用するのか、具体的に紹介しますので、これまでの記事も含めてご覧いただけたらと思います。

粗利益率業界平均の地域差は基本的に無視できる|その理由!

経済センサスでは、都道府県ごとに売上高や各種経費を集計したデータが取得できます。

その場合、業種は中分類になってしまうため、例えば「76:飲食店」の都道府県別データは分かるのですが、「76B:中華料理店」では全国平均データのみ取得可能です。

当記事では、粗利益率の業界平均を計算するにあたって、地域による差を補正する必要はほどんどないと考えます。

以下、その理由について説明していきます。

粗利益率の地域差はどのくらいか?

業種によって大きく異なりますが、粗利益率の地域差についてはどの業種においても、平均的に上下8%程度の違いが見受けられます。

つまり、ある業種の全国平均粗利益率が50%であったとき、都道府県別にみると、おおむね42%~58%程度のバラつきが見られるということです。

16%幅の違いがどうして無視できるのか

粗利益率42%と58%の差は大きく、数字だけを見れば、経営判断に影響してもおかしくありません。

なのにどうして、地域差は無視してよいのでしょうか?

その理由は2つ。

  • 都道府県による粗利益率の差は、事業規模による粗利益率の差で吸収できる。
  • 理論上、粗利益に地域差が大きく出る根拠がない。

それぞれについて説明していきましょう。

1. 都道府県による粗利益率の差は、事業規模による粗利益率の差で吸収できる。

例えば、飲食店における都道府県別の粗利益率を見てみましょう。

ここではトップ3とワースト3のみ掲載します。

飲食店における都道府県別の粗利益率(トップ3)
1位 富山県 85.4%
2位 長崎県 84.8%
3位 和歌山県 84.3%

 

飲食店における都道府県別の粗利益率(ワースト3)
45位 神奈川県 70.1%
46位 大阪府 70.0%
47位 東京都 67.6%

全体として、人口の多い都道府県では粗利益率が低く、逆に地方では粗利益率が高くなっています。

この現象の解釈としては、

人口の多い都会の企業が、「薄利多売」の営業をしている。

ということが考えられます。

「薄利多売」すなわち、売上規模が大きいということなので、上記の地域差は、実は「売上規模の大小」に還元されてしまう可能性が高いのです。

結局、粗利益率の地域による違いというものは、実際にはほとんど存在しないという結論になります。

2. 理論上、粗利益に地域差が大きく出る根拠がない。

どんな業種にせよ、物価は、地域によって異なります。

ですが、仕入れにかかる物価の変動は、売価にも反映すると考えられます。

ですから、物価の上下は、粗利益率にはほとんど影響ないはずです。

平均的に、○○業の、□□県における粗利益率は、△△県と比較して8~16%違っている場合が多いのですが、それは都道府県における事業形態の偏りや事業規模の偏在によるものが大きく、純粋な地域格差は無視して良いほど小さいと考えられます。

実際に、大都市圏とそれ以外の地域の総計では、粗利益率の差がおおむね2%以内にとどまっており、粗利益率に地域差が存在しにくいことの証左となっています。

大都市圏とその他の地域で粗利益率の差が2%を超える業種
業種名(中分類) 粗利益率の差
03 漁業(水産養殖業を除く) 13.2%
49 郵便業(信書便事業を含む) 4.22%
34 ガス業 4.01%
89 自動車整備業 3.18%
45 水運業 2.99%
95 その他のサービス業 2.96%
01 農業 2.94%
88 廃棄物処理業 2.74%
77 持ち帰り・配達飲食サービス業 2.61%
07 職別工事業(設備工事業を除く) 2.14%
12 木材・木製品製造業(家具を除く) 2.11%
02 林業 2.04%
43 道路旅客運送業 2.03%
20 なめし革・同製品・毛皮製造業 2.02%
上表以外の81業種においては、粗利益率の差がいずれも2%未満。

上の表にある粗利益率の差が2%超となっている業種においても、ほとんどの場合は地域別の粗利益率の違いを考慮する必要はないと思われます。

例えば、粗利益率の差が最も大きい「漁業」の都道府県別粗利益率を見てみると、上は93.8%(徳島県)から下は3.5%(神奈川県)まで、てんでバラバラです。

このようにバラつきの大きなデータに振り回されずに、前記事で説明したように、細かい業種ごとの全国平均粗利益率に事業規模による補正を施した数値の方が、粗利益率の目安として機能しやすいと考えられます。

なぜ、バラつきの大きい数値を無視するのか

一般的に言って、経済センサスなどの統計情報には、以下のような特徴があります。

絞り込みの程度 統計情報の信頼性・有用性への影響
より大まかな範囲でデータを取得し、計算する。 粗利益率などの統計数値の信頼度は高くなるが、絞り込みの範囲を大きくして計算した数値の有用性が低くなってしまう。
業種・事業規模・地域など、条件を細かく絞り込む 有用性は高まるが、サンプル数(調査対象となる事業者・会社の数)が少なくなるため、特に粗利益率などの割合を計算する統計数値の信頼性が低下する。

つまり、経済センサスから業界の粗利益率平均を求めようとする場合には、統計情報の信頼性と有用性が対立することになります。

信頼性を最大限重視するならば、すべての業種を合計した全国平均粗利益率が、最も信頼性の高い情報です。

因みに、平成28年度の経済センサスでのすべての業種を合計した全国平均粗利益率は、41.58%です。

この数値は、非常に信頼性が高い。なぜなら、何らかの理由で粗利益率が異常に高かったり、逆に低すぎたりするデータが混じっていても、大多数の標準的なデータによってその異常な影響が薄められていると考えられるからです。

しかし、この数値に何の意味(有用性)があるでしょうか?

国家予算を計画するような仕事ならばともかく、一事業者にとっては、日本全体の粗利益率平均を知ったところで、あまり意味(有用性)がありません。

事業の指針を決定するために必要なのは、より具体性のある数値です。

具体性のある数値の実例として、極端に言えば、地域を極限まで絞り込んで、名古屋市中区における製造業(大区分)の粗利益率を調べることも可能です(この場合、粗利益率は25.3%となります)。

ですが、製造業の幅は大きく、事業区分を細分化した粗利益率では2.6%~68.3%という、大変に広い振れ幅があります。

実際に貴社の事業について色々と調べてみれば分かることですが、条件を絞り込むほどに極端な数値に出くわすことになりがちです。

こうした場合、「絞り込みによって統計情報の有用性は増しているが、信頼性は(おそらく思ったよりも大きく)低下している可能性がある」ことを意識するようにしましょう。

統計情報の信頼性と有用性、双方のバランスが大切

業界平均の粗利益率を調べるにあたっては、統計情報の有用性と信頼性のバランスをとることがとても大切です。

そのバランスを意識して、粗利益率の業界平均をなるべく簡単に計算できるよう、提示したのが、前記事で紹介した計算式となります。

本記事のまとめ

今回の記事では、粗利益率の業界平均値を求めるにあたり、地域による差を重視すべきでないこと。また、その結論に至るため、統計情報の扱い方を詳しく説明しました。

次回の記事では、粗利益率の業界平均値を求めたとして、それをどう利用するのかについて詳しく説明します。

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