COLUMN経営コラム

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クラウド会計ソフトが出力する資料の有効活用法|①残高試算表(損益計算書)

2021.11.23

税務クラウド

クラウド会計システムを導入すると、いろいろな資料(レポート)を取得することができます。

それらのレポートは、大変分かりやすい視覚的な記載になっているものがほとんどです。

それでも、基礎的な会計知識がないと資料を読み違えたりすることがあるので、注意が必要です。

「会計・税務のことは顧問税理士に聞けばいい」確かにそうですが、基礎知識を持って税理士の話を聞くのと、何も知らないで聞くのとではやはり理解度が違ってくるでしょう。

本記事では、クラウド会計の時代に必要な会計知識として「損益計算書」の見方にスポットを当てて説明します。

残高試算表における損益計算書とは何か

損益計算書は、会社や事業の利益をみるための書類です。

プロジェクト・事業や店舗別に作成することもでき、それぞれの収益性の判断材料となります。

ただし、残高試算表内の損益計算書には少し表現上の「クセ」があります。そういった特徴も含めて、残高試算表の見方を検討していきましょう。

多くのクラウド会計サービスでは、このような形式で残高試算表が出力できます。

少し長くなりますが、実際に近い表を示します。

(1)前期残高(2)借方金額(3)貸方金額(4)期末残高(5)構成比
売上高15,000,0005,800,00020,800,000100.0%
【売上高合計】15,000,0005,800,00020,800,000100.0%
期首商品棚卸高800,000820,000800,000820,0003.9%
仕入高4,000,0002,300,0006,300,00030.3%
期末商品棚卸高820,000800,000845,000845,0004.1%
【売上原価】3,980,0002,320,000△45,0006,255,00030.1%
【売上総利益】11,020,0003,525,00014,545,00069.9%
役員報酬2,400,000800,0003,200,00015.4%
給料手当4,300,0001,500,0005,800,00027.9%
福利厚生費300,000100,000400,0001.9%
法定福利費1,000,000350,0001,350,0006.5%
地代家賃900,000450,0001,350,0006.5%
水道光熱費150,000115,000265,0001.3%
減価償却費1,200,000600,0001,800,0008.7%
消耗品費68,00070,000138,0000.7%
旅費交通費160,000212,800372,8001.8%
通信費39,00014,20053,2000.3%
支払手数料18,9006,50025,4000.1%
雑費34,00020,00054,0000.3%
【販売費及び一般管理費】10,569,9004,238,50014,808,40071.2%
【営業利益】450,100713,500△263,400△1.3%
受取利息202,0002,0200.0%
雑収入500175170.0%
【営業外収益】5202,0172,5370.0%
支払利息15,00019,00034,0000.2%
【営業外費用】15,00019,00034,0000.2%
【経常利益】435,620730,483△294,863△1.4%

ここから何を読み取り、どのように経営改善につなげることができるでしょうか?

以下では損益計算書をみるときのポイントと、経営改善との関連について、詳しくみていきます。

損益計算書をみるときの注意点

損益計算書をみる際にはまず、以下の点に注意しましょう。

  • 上表(1)の値は、前期(前月)までの累計金額である
  • 上表(4)の値は、当月末までの累計金額である
  • したがって、当月中の損益は(4)-(1)で算出できる。

つまり、上の表を「◯月分の試算表」として提示された場合、最も知りたい当月の成績は一見では分からないということです。

当月の成績は(4)-(1)ですから、計算すると以下のようになります。

(6)当月成績((4)-(1))(7)構成比
売上高5,800,000100.0%
【売上高合計】5,800,000100.0%
期首商品棚卸高820,00014.1%
仕入高2,300,00039.7%
期末商品棚卸高845,00014.6%
【売上原価】2,275,00039.2%
【売上総利益】3,525,00060.8%
役員報酬800,00013.8%
給料手当1,500,00025.9%
福利厚生費100,0001.7%
法定福利費350,0006.0%
地代家賃450,0007.8%
水道光熱費115,0002.0%
減価償却費600,00010.3%
消耗品費70,0001.2%
旅費交通費212,8003.7%
通信費14,2000.2%
支払手数料6,5000.1%
雑費20,0000.3%
【販売費及び一般管理費】4,238,50073.1%
【営業利益】△713,500△12.3%
受取利息2,0000.0%
雑収入170.0%
【営業外収益】2,0170.0%
支払利息19,0000.3%
【営業外費用】19,0000.3%
【経常利益】△730,483△12.6%
この数字を確認するために、例えばマネーフォワードでは「月次推移表」や「前期比較表」でおおむね同様の結果を得ることが可能です。

上の表をみても、何をどう見ていいのか分からないという方。心配することはありません。

これから、業種や規模に関わらず、全ての経営者がチェックすべきポイントを紹介します。

必須のチェックポイントはたったの4つ!

  • 売上高
  • 売上利益率
  • 営業利益・営業利益率
  • キャッシュフロー

以上です。

それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

ここをクリックすると、ブラウザで新しいタブが開き、上の表が表示されます。
そうしてからこのページに戻り、必要に応じて表を参照しながら見ていただくと、分かりやすいと思います。

売上高|前月比や前年同月比を使い分ける。

売上高は、その月の売上金額を示すもの。表では、②が売上高を表しています。

売上高を評価するには、前月と比較して短期的な成長度を測る方法があります。季節的変動があるビジネスの場合は、前年同月比(前期比較表にて確認可能)を見て、売上が昨年の同じ月に比べてどれくらい伸びたか(または減少したか)に注目するとよいでしょう。

売上高は企業の事業規模・営業努力を反映しています。企業の実績をみるために、まず最初に売上高をチェックしましょう。

売上利益率(粗利益率)| 利益率の業界標準も知っておこう

上表では⑦の(7)が売上利益率(=粗利益率)を示しています。

②の売上高が順調に伸びているとしても、それが大幅な値下げによるものだとしたら、会社にとってマイナスとなってしまう可能性があります。

そうした事態を防ぐために、粗利益率のチェックが欠かせません。

また、自社の粗利益率が業界標準から大きく乖離していないかも、一応知っておきましょう。一応というのは、会社にはそれぞれ個別の事情があり、粗利益率もそれによって大きく左右されるので、業界標準ばかりを気にしても仕方がないからです。

業界標準の粗利益率は、毎年変動します。「◯◯業 粗利益率」で検索すると、最新の情報を入手できます。

営業利益・営業利益率|会社の利益!上がらないのはどうしてか?考えましょう

営業利益は、会社のその月における利益額を示すものです。上表の㉑が該当します。

営業利益が少ない・またはマイナスの場合は、その原因を考えましょう。

余分な経費(上表⑫~⑲)がないか、人件費(上表⑧~⑪)が多過ぎではないかという費用面からの分析。売上件数が少ないのか、粗利益率が低すぎるのかといった売上利益面の分析。双方が必要です。

キャッシュフロー|利益があるのにお金がない!どうしてでしょうか?

キャッシュフローは、利益とは異なり、その月にいくらお金が増えたか(または減ったか)を表す指標です。

「そんなことは通帳を見れば分かる」確かにそのとおり。ですが、「なぜ、こんなにお金が減ってしまったんだろう?」と思ったことはありませんか?

キャッシュフロー計算書を作成すれば、入出金の内容が把握できます。

ですが、クラウド会計システムにはキャッシュフロー計算書の出力に対応していないものもあります。対応していても、設定が面倒だったり、結局、見方が分からないという方も多いでしょう。

大まかなキャッシュフローは、損益計算書から概算できます。このやり方を学ぶことで、キャッシュフローの見方も身につくことでしょう。

通常の会社では、たいだい次の計算でキャッシュフローの替わりとなります。

  1. 営業活動によるキャッシュの増加(減少)≒ 経常利益(上表㉗) + 減価償却費(上⑭)
  2. 設備などの投資によるキャッシュの減少 ≒ 設備投資額(※)
  3. 財務活動によるキャッシュの増加(減少) ≒ 新規借入額(※)- 借入返済額(※)
  4. その月のキャッシュフロー ≒ 1~3の合計
(※)これらは上表にはない数値ですが、すぐに分かる金額です。

「利益が出ているのにお金がない(4.その月のキャッシュフローがマイナス)」という場合、その理由はキャッシュフロー計算の2.もしくは3.にあります。

すなわち、設備投資にお金を使ったために資金が減少しているか、借入金の返済額が大きいためにお金が減っているかのどちらか・またはその両方が原因と考えられます。

まとめ:どうやって経営改善につなげるか|税理士に意見を聞いてみましょう

損益計算書の見方を説明してきましたが、はっきり言ってこれらは『超』基本的な事項であり、経営者にとって画期的なアイデアをもたらす程の内容ではありません。

それでも事細かに説明したのは、こういった会計知識を持って税理士等と話ができれば、クラウド会計システムの効果を更に発揮することになるからです。

クラウド会計が充分に発達した時代には、会計データの入力作業など、これまで時間がかかっていた作業がより早く済むことになります。

結果、税理士などと話す際に直近のデータを参照しながら、これまでよりももっと現実に即した相談ができるようになるでしょう。

そのような時代にあって、知識不足のために経営者が受け身で税理士と対峙することは決してプラスにはなりません。

本記事で得た知識を、税理士との会話で活かすようにしていただけたら幸いです。

会計・簿記の基本についてはまた他の記事でも紹介したいと思います。

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この記事の執筆者

末松和真

税理士法人末松会計事務所代表社員。税理士。 (株)FLAGSコンサルティング 代表取締役 税理士として税務・会計はもちろんの事、経営支援・クラウド会計支援・融資実行・補助金に強く、幅広い知識とサービスで企業の成長を支援している