COLUMN経営コラム

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設備投資のコストパフォーマンス|覚えておきたい税理士の視点

2022.01.13

税務

起業するときや新規事業を立ち上げるとき、事業を長く継続する際に、設備投資は避けて通れない問題です。

設備投資は通常多大な支出を伴いますので、経営者にとっては大きな決断の場面となります。

決断のポイントとなるのは、コストとベネフィットです。設備投資による様々なコストと、設備投資の結果得られる利益や利点を比較して、後者が勝っていれば、その設備投資は実行するに値すると言えるでしょう。

本記事では、設備投資に係るコストとベネフィットの内容について詳しく解説します。特に、会計の専門家である税理士の視点から、金銭的な費用と効果の比較について詳述します。

  • 設備投資の是非を判断する立場の経営者の方
  • 設備投資を提案する担当者
  • 設備投資の費用対効果を計算する経理担当者

にとって、特に有用な内容となっています。

最後までお読みいただき、設備投資に係る判断に役立てていただきたく存じます。

設備投資とは

企業がその事業を開始・持続・発展させるために必要な設備を購入したり、開発することを設備投資といいます。

設備には、土地や建物などの不動産や機械装置、器具や備品・ソフトウェアなどが含まれます。

実際には、小さな金額の備品購入は設備投資とは言いません。おおむね10万円以上(法人税法上減価償却資産に含まれるもの)、会社の規模等によっては50~100万円以上のものが設備投資と認識されます。

社内稟議を経て、購入許可が降りる金額以上のものが設備投資という認識でもいいでしょう。

2つのタイプの設備投資|タイプに応じて投資効果を判定する

設備投資には、大きく分けて2つのタイプがあります。

それぞれ、計画策定や実行の判断基準に違いがあるので注意が必要です。

タイプ①:必要に迫られての設備投資

新規事業のため、旧設備の老朽化のため、ニーズ対応のためなど、好むと好まざるに関わらず設備投資を強いられるケースがあります。

このタイプの設備投資は、設備投資による利益を得られない場合もあります。

それでも損失を最小限に抑え、できるだけ短期間に投資額を回収するプランを追及することが大切です。

タイプ②:喫緊の必要性はないが、将来の事業発展のためにする設備投資

事業発展・拡張を目的とする設備投資では、なるべく短期間で投資額を回収し、更に大きな利益を生み出す計画が必要となります。

したがって、綿密な計画策定はもとより、経営者としても、よりシビアな判断基準を置く必要があります。

多くの場合、設備投資は100%タイプ①だとか完全にタイプ②というように区分できるものではありません。タイプ①的な要素も②的な部分も併せ持つのが普通です。

このあと説明するコストとベネフィットを比較して、だいたい次のように考えましょう。

  • コスト ≧ ベネフィット : タイプ①の場合のみ許容できる
  • コスト < ベネフィット : タイプ②ではこれが必須

設備投資に係るコストとベネフィット

設備投資では、その恩恵を受けることが出来る反面、様々なコストもかかります。

コスト・ベネフィットとも、金銭的なものだけではなく、人的・心的なものもあることに十分注意が必要です。

設備投資に係るコスト

設備投資に係るコストの中心はなんといっても設備そのものの購入代金です。購入代金を融資に頼るならばその利息もコストとなります。

その他、ランニングコストや新規設備の操作研修費用なども勘案する必要があります。

設備投資によるベネフィット

新しい設備等の導入によるベネフィットは通常、製品やサービスの品質向上が主となります。

また、旧設備と比較して、人件費や電気代・燃料費が削減できたり、作業が単純化・自動化されたりすることで、労働環境の改善に益することもあります。

設備投資の費用対効果の算出

それでは、設備投資の金銭的パフォーマンスの測定方法を見ていきましょう。

表と例を用いて説明しますので、難しくはありません。ここからが本題ですので、ぜひとも以下をお読みいただきたいと思います。

まずは費用面でのプラス・マイナスを算出し、それからどのくらいの売上効果が必要かを計算します。

金銭的な費用対効果の算出で注意していただきたいのは、費用を考える際に上で述べたベネフィットのうち経費削減部分も入れていること。つまり、

  • 設備投資の効果 = 売上の増加
  • 設備投資の費用 = それ以外の全て

であるということです。

設備投資の事例

お惣菜・弁当を製造・販売している某社を例にします。

現在、売上高はおよそ5,000万円/年。毎年黒字の優良企業です。

この会社が1,000万円のフライヤー(揚げ物製造機械)の導入(購入資金は全額銀行融資で調達する)を検討しているとしましょう。

その理由は以下のとおり。

1. 現行のフライヤーが老朽化している

2. 新しいフライヤーに移行すれば、味・見た目もよくなる

3. 新しいフライヤーは、油の濾過が効率的にできるため、油代が浮く。

4. 新しいフライヤーは、加熱効率が良く、電気代が安くなる。

良いことばかりのようですが、お金の面ではどうでしょうか?

設備投資の費用算出

設備投資の費用は、設備そのものの購入代金だけではありません。上記で説明した効果も含めて総合的に算出する必要があります。

また、設備投資の効果は通常複数年にわたること、設備もまた複数年にわたって使用されることを考えなければいけません。

税法上も、また会計規則でも、1,000万円のフライヤーは例えば10年間の耐用年数があるとして10年間にわたって100万円ずつ費用(これを減価償却費といいます)とするように定められています。

様々な要素を勘案した結果、この1,000万円のフライヤーの金銭的コストは以下のようになりました。

コストの内容1年目2年目3年目4年目5年目6年目7年目8年目9年目10年目合計
(ア)借入返済
(≒減価償却費)
1001001001001001001001001001001,000
(イ)支払利息2018161412108642110
(ウ)点検・修理12121212121212121212120
(エ)電気・ガス-12-12-12-12-12-12-12-12-12-12-120
(オ)油代-20-20-20-20-20-20-20-20-20-20-200
(カ)人件費-1-1-1-1-1-1-1-1-1-1-10
合計99979593918987858381900

(ア)借入金の返済は費用ではありませんが、今回は毎年の返済額(元本)と減価償却費が一致するものとします。(返済期間が10年ということ)

(イ)借入金の返済には利息が付きます。今回は年利約2%として計算しています。

(ウ)点検・修理代はメンテナンス費用です。数年に一度の大きなメンテナンス分も勘案して1万円/月とします。

(エ)電気・ガス代は、新規設備の方が省エネとなるため毎月1万円の節約が可能です。

(オ)揚げ油の交換頻度も少なくなり、1万円/月の節約となります。

(カ)揚げる時間の短縮・一度に揚げることが出来る食材の量増加によって、人件費が削減できます。

ベネフィットに属する「コストの減少」も費用計算に入れていることに注目しましょう。

こうすることで、投資効果をシンプルに判定することが出来ます。

設備投資の効果

費用面では、コストの減少も加味して計算しましたので、設備投資の金銭的効果は純粋に利益の増加となります。

先ほどの例では、費用が10年間総計で900万円でした。つまり、この設備投資で10年間で900万円以上の利益増を見込めるならば、充分に成算のある投資計画ということが出来るでしょう。これは上記の設備投資タイプで言うとタイプ②となります。

一方、900万円を直接ペイできなくとも、品質向上や旧設備の老朽化などの理由から、設備投資すべきという判断もあり得ます。これはタイプ①の設備投資です。

設備投資の是非

現実的には、タイプ①とか②で単純に割り切れるわけでもなく、設備投資の是非を判断するためには総合的な考え方が必要となるでしょう。

その際にも、上記で説明したような費用計算の方法は非常に有効です。

どんな経営判断においても、数字の裏付けがあるのとないのとでは、説得力や判断への自身に明らかな違いが出てくることと思います。

まとめ:設備投資を検討する際には税理士に相談を!

本記事では、具体例をあげて設備投資の費用対効果の算出を説明しました。

ここで示した計算や考え方はあくまで一例であり、全ての事業や投資に適用できるわけではありませんが、応用範囲の広い手段を紹介したつもりです。

とはいえ、経営者や経理担当者の方がすぐにこのような計算・判定をするのは困難でしょう。なぜなら、設備投資に係る費用や無形のコストは業種や経営規模などによって多岐にわたる上、どのくらいまで数え上げ、どれほど厳密に計算する必要があるのかといったことは経験を積んだ専門家にしかわからない部分があるからです。

したがって、設備投資などを検討する際には、顧問税理士などに相談することをお勧めします。

税理士は、業種や投資内容に即したデータや経験を蓄積しており、この種の相談に最適なパートナーです。

設備投資を実行する前に、最初に顧問税理士に相談するようにしましょう。

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この記事の執筆者

末松和真

税理士法人FLAGS代表社員。税理士。 (株)FLAGSホールディングス 代表取締役 税理士として税務・会計はもちろんの事、経営支援・クラウド会計支援・融資実行・補助金に強く、幅広い知識とサービスで企業の成長を支援している。