COLUMN経営コラム

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会社設立を考える個人事業主へ!法人化のメリットと注意点
投稿日:2024.11.15
更新日:2025.03.10
経営

個人事業主の方で法人化してみてはどうだろうかと考える場合もあるでしょうが、気になるのはそのメリット・デメリットです。そこで今回は、個人事業主が法人化するメリット・デメリット、法人化による社会的信用度の向上、法人化に伴う手間とコストなどの解説をします。そのほか、法人化に関する情報をお届けしますから、個人事業主で法人化を考えている方はぜひ記事の内容を参考にしてください。
この記事は各分野のプロフェッショナルが在籍する団体が執筆を担当しております。内容には信憑性がありますから、安心して読んでいただいて大丈夫です。
▼ この記事の内容
法人化を検討するタイミングとは?
画像引用元:写真AC
個人事業主が法人化する場合、適切なタイミングを計ることが大事です。そこで、どのようなタイミングで法人化すればいいのかを解説しましょう。
収益が増えた時に法人化を考える理由
収益(事業所得)が増えたときは法人化を考える適切なタイミングになります。
では、どのくらいが基準になるかというと、所得が800万円を超えたときです。なぜかというと、所得800万超えで個人事業主が納める所得税と法人が納める法人税の税率が変わってくるからです。
そこで、それぞれの税率を掲載してみましょう。
▼所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
▼法人税の税率
区分 | 適用関係(開始事業年度) | |||||||
平28.4.1以後 | 平30.4.1以後 | 平31.4.1以後 | 令4.4.1以後 | |||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など(注1) | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% | |
適用除外事業者(注2) | 19%(注3) | 19%(注3) | ||||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | ||||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
(注3) 平成31年4月1日以後に開始する事業年度において適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます。以下同じです。)(令和4年4月1日以後に開始する事業年度においては、通算制度における適用除外事業者(注2)を含みます。) に該当する法人の年800万円以下の部分については、19パーセントの税率が適用されます。
個人事業主の場合、所得が695万円を超えると所得税率は23%ですが、こちらは累進課税制度となっているので、所得が増えれば増えるほど税率が上がります。
一方、法人税率は最大税率が23%で、所得800万円では15%。これなら法人税の方が税率が低くなります。そのため、このあたりで法人化するのが1つのタイミングとなるでしょう。。
一定の売上を超えた際にかかる税負担
今度は、売上額から見た法人化のタイミングを計ってみましょう。
こちらは事業所得としての売上が1,000万円を超えるかどうかが目安となります。そこで、個人事業主が消費税の課税事業者となる条件を見てみましょう。
画像引用元:法人化(法人成り)とは?メリットやデメリット、最適なタイミングについて徹底解説
上記の図を見ると、課税売上高1,000万円以上で消費税の課税事業者になることが分かります。
一方、ここで法人化すると、最大2年間の消費税納付が免除されます。これを「新設法人の納税義務の免除」というのですが、資本金1,000万円未満などの条件があります。
気を付けていただきたいのがインボイス制度との関連です。インボイス発行事業者になると、消費税の納付義務が生じるので、この「新設法人の納税義務の免除」は利用できません。
代わりに「2割特例」という経過措置があり、売上にかかる消費税額の2割を納付すれば良くなるようになっています。
新たなビジネスチャンスや拡大を目指すとき
新たなビジネスチャンスや拡大を目指しているときも法人化の適切なタイミングと言えます。特に次のような場合は、絶好の時期でしょう。
- 法人でしか契約できない案件を獲得したい
- 株式を発行して、資金調達をしたい
- 対外的な信用力を伸ばしたい(後ほど説明します)
税制面での違い:法人化のメリットとデメリット
画像引用元:写真AC
個人事業主が法人化することで、税制面でどのような違いが生じるでしょうか。税制面でのメリット・デメリットを確認してみましょう。
法人化するとどのように節税できるのか?(給与分散、経費計上)
法人化による節税効果の第一は給与分散によるものです。
給与を受け取ったら、所得税を納めなければいけませんが、社長個人が納めるのと家族で給与を分算して納めれるのでは、納税額が違うのです。
所得税は累進課税制度になっていて、所得が大きくなれば大きくなるほど税率が高くなります。
ということは、社長個人が所得を丸々受け取ると、税率も高くなりやすいのです。この所得を事業に従事している家族で分散して受け取るようにすると、それぞれの所得額は低くなって、所得税の税率も下がります。
給与分散により節税ができるということです。
次は経費計上の問題。個人事業主よりも法人化した方が、経費に計上できる項目が増えます。例えば、次のような項目です。
- 社長への退職金
- 家族専従者への退職金
- 役員への報酬
- 出張にかかる手当
- 慶弔見舞金
- 生命保険の保険料(従業員を被保険者、受取人を法人とした法人契約のみに適用)
- 自宅の家賃(法人契約で役員の社宅としたときのみに適用)
経費計上できる項目が増えれば、納税額も減ります。
税制面での違い(所得税vs.法人税)
個人事業主の所得税と法人の法人税については、「法人化を検討するタイミングとは?」のところで説明しました。タイミングによって、法人化した方が節税できます。
逆に、法人化することで発生する追加コストや負担(法人税申告、税理士費用)
法人化すると、税制面でのメリットを受けられるのですが、逆に追加コストや負担も生じます。
まず、法人税の申告をしなければいけません。法人化した場合は、法人税申告書や決算書を作成しなければならず、事務作業も増えます。事務担当者の作業負担も大きくなるでしょう。
また、これらの作業を税理士に依頼することもできますが、依頼料が発生します。かといって、自分だけで作業をしようとすると、手間も時間もかかるほか、本業に専念しにくくなることもあります。
社会保険や年金制度の違い
法人化すると、社会保険や厚生年金に加入しなければいけません。
社会保険は従業員が一人しかいなくても加入を義務づけられています。この従業員には社長も含まれているので、法人化=社会保険の加入となるのです。
健康保険や厚生年金などの保険料は、従業員と会社側で半々ずつ納めることになります。そのため、従業員が増えると、会社側の負担も大きくなるので大変でしょう。
個人事業主のままが良いケース
法人化せずに個人事業主のままでいた方がいいケースもあるので、紹介しましょう。
まず、面倒な開業手続きをしたくなければ、個人事業主のままの方がいいです。法人設立にはいくつかの手続きを踏まなければならず、設立費用もかかります。それよりも個人事業主開業の方がカンタンです。
経理や税務処理で苦労したくないという場合も、個人事業主のままの方がいいです。個人事業主の会計作業は会計ソフトがやってくれますから、自分で難しい計算をしなくても済みます。仮に青色申告をする場合でも、対応している会計ソフトがあります。
それに対して、法人の会計作業は複雑で大変です。会計ソフトでカンタンに済ませるというわけにはいきません。専門的な知識も必要で、そのような知識を備えた従業員を雇うか、税理士に会計業務を依頼しなければいけません。そのようなことが煩わしいと思われるのなら、個人事業主のままでいるのがおすすめです。
青色申告特別控除を利用したい場合も、個人事業主のままでいる必要があります。青色申告特別控除により、最高65万円の控除を受けられますが、法人にはこのような控除はありません。
法人化による社会的信用の向上
画像引用元:イラストAC
個人事業主が法人化することで、社会的信用が向上します。社会的信用が向上することで、どのようなメリットがあるのかを考えてみましょう。
法人化が与える取引先への印象や信用度
法人化する場合、商号(社名)や住所、資本金などを法務局に登録することになります。これで法人としての責任が生まれ、社会的に信用されるようになるのですが、これで取引先に与える印象も大きく変わってきます。
個人事業主との取引はしない会社でも、法人化した会社なら取引しましょうというところもあるほどです。取引先獲得という点で、法人化の意味は大きいです。
融資や助成金の申請が容易になる
法人化により社会的信用が向上すると、融資や助成金申請を行いやすくなります。個人事業主時代では利用できなかった融資や助成金を利用できるようになることもあります。
大企業や行政との取引に有利な点
法人化した会社は一組織として認められます。一人で運営している法人でも同じです。
ここは大事な点で、組織であればこそ、サービスの品質も良くなり、アフターフォローでも安心でき、トラブルにも的確に対応し、不正防止への取り組みも熱心だと思われるものです。
そうなると、大企業や行政との取引で有利になるでしょう。
信用が必要な事業拡大や投資に向けたメリット
会社が事業を拡大しようと思うときに必要なのが信用です。信用されていれば、新たな事業にも参入しやすくなり、チャンスも大いに広がります。
その信用を与えてくれるのが法人化です。法人化により、様々な事業拡大がしやすくなります。
投資でも、法人化しておく方が有利です。FXでは、法人口座の方が高いレバレッジで取引できます。不動産投資でも、法人化しておけば信用されるので、融資も受けやすくなります。
法的リスクと責任の違い:有限責任と無限責任
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個人事業主と法人化された会社では、法的リスクと責任が異なります。それぞれのリスクと責任を確認してみましょう。
法人設立によって得られる「有限責任」のメリット
有限責任とは、会社が倒産したときに出資額までの責任で済むという制度です。会社の債権者に対して、出資額以上の責任は負わなくていいということです。責任に限りがあるということになります。
仮に出資額が500万円なら、ここまでの責任で構いません。これで安心して大規模な事業にも取り組みやすくなります。会社が倒産しても、個人の財産への影響を免れられるのがメリットです。
株式会社、合同会社、有限会社などの法人には有限責任が適用されます。
個人事業主としての「無限責任」のリスクとは?
法人では有限責任となりますが、個人事業主は無限責任を負わなければいけません。無限責任とは、事業の債務に対して全面的な責任があるということです。
もし事業に関連する債務が発生して、返済が思うように行かないときは、個人の財産からも返済額を調達しなければいけません。それでも返済ができないときは、自己破産などの手続きを踏む必要もあります。
責任が無限ということは、リスクも非常に大きいのです。
借入れや事業失敗時のリスク軽減
有限責任となっている法人の場合、借入れで債務が膨れても、出資額までの責任となりますから、重い負担が生じません。
事業を失敗してやはり債務が大きくなっても、責任が限られているので、安心して大きな事業にも取り組めます。
会社形態の選択:株式会社vs.合同会社
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個人事業主が法人化する場合、株式会社か合同会社かという選択肢があります。それぞれを選択した場合の違いを見てみましょう。
株式会社と合同会社の違い(設立コスト、経営の自由度)
株式会社と合同会社の基本的な違いは、出資者と経営者の関係にあります。出資者と経営者が別れているのが株式会社、出資者と経営者が一致しているのが合同会社です。
しかし、この違いを見ただけでは、どちらを選ぶべきか分かりにくいでしょうから、他の面の比較もしてみます。
株式会社 | 合同会社 | |
設立コスト | 25万円程度 | 10万円程度 |
意思決定速度 | 株主総会を経るので、少し時間がかかる | 株主総会を経る必要はなく、迅速の意思決定ができる |
決算公告義務 | 有り | 無し |
資金調達の方法 | 株式の増資で資金調達ができる | 国や自治体の補助金・助成金から借り入れることが多い |
税金面 | 法人税 | |
利益配分と経営の自由度 | 株主の決定 | 出資者 |
信用度 | 高い | 低い |
自分のビジネスにどちらが適しているか?(今後の事業規模や目的に応じた選択)
株式会社と合同会社のどちらで法人化するかですが、大企業を相手にした事業を行いたい場合は株式会社、小規模事業を手掛けたいのなら合同会社がおすすめです。対外的な信用力を増したい場合は株式会社、経営の自由度を重視するなら合同会社がいいでしょう。
合同会社を選ぶメリットとデメリット
法人化で合同会社を選ぶメリットは次のようなことです。
- 設立コストやランニングコストが抑えられる
- 経営の自由度が高く、意思決定を素早くできる
- 利益の配分を自由に変更できる
- 役員の任期に制限がない
法人化で合同会社を選ぶデメリットは次のようなことです。
- 株式会社に比べて、信頼性・認知度ともに劣る
- 資金調達方法が限られる
- 株式市場への上場はできない
株式会社を選ぶメリットとデメリット
法人化で株式会社を選ぶメリットは次のようなことです。
- 社会的信用が高まる
- 株式を発行することで、返済しなくてもいい資金を調達できる
- 投資対象になることができる
- 株式上場ができる
法人化で株式会社を選ぶデメリットは次のようなことです。
- 定款認証の手数料5万円が必要
- 役員の任期が来たら、登記し直す必要があり、登録免許税が1万円かかる
- 決算公告の義務があり、掲載料がかかるほか、会社の財政状況を第三者に知られる
法人化に伴う手間とコストは増える?
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個人事業主が法人化すると、手間やコストが増えるのでしょうか。確認してみましょう。
法人化に伴う法的義務(決算、税務申告)の増加
法人化により、法的義務は増加します。
まず、社会保険や労働保険に加入しないといけません。個人事業主の場合は必要ないことですが、新たな事務作業が生じます。
次に必要なのが法人決算。年間の損益や資産・負債・純資産を整理管理して、必要な書類にまとめる必要があります。法人決済は独力でできる場合もありますが、楽な作業ではありません。そのため、税理士に委託した方がいい場合もあります。
法人化に伴って発生する税金は次のようなものです。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税及び地方消費税
個人事業主時代とは、納税内容が異なり、手続き方法も変わるので慣れるまで少し大変です。また、個人事業主を廃業するための手続きも必要です。
経理や税務の複雑化
法人化すると、個人事業主時代よりも経理や税務作業が複雑化します。決算書類の作成や法人税の申告手続きも複雑になるので、これまで以上に作業が大変になるでしょう。
そのために専門の従業員を雇うことになれば、人件費もかかりますし、税理士に依頼すれば依頼料も必要です。業務負担の増加に伴って、コストも増します。
人員を増やす場合の社会保険や労働保険の負担
法人化した会社を一人で運営するのならあまり考えなくてもいいことですが、人員を増やせば、社会保険や労働保険の負担も増えます。
作業自体も増えるし、会社負担分のコストも発生するなど、何かと大変です。
なお、法人化にかかる手続きや費用については下記記事で詳細を解説していますので、併せてご覧ください。
参照:会社設立にかかる費用は?必須費用から節約方法まで徹底解説
参照:会社設立の流れを解説!必要な手続きと準備すべきポイント
まとめ
今回は、個人事業主が法人化することに関して様々な観点から検証してみました。
結局、法人化するもしないも個人の判断によりますが、次のようなポイントを押さえてから考えてみましょう。
- 法人化するタイミングを見極める材料を確認する
- 法人化するメリットとデメリットのバランスを比較する
- 自分のビジネスにとって法人化するのがベストな選択かどうか検討する
法人化で失敗するようなことがあってはいけません。慎重に材料を集めて判断し、どうするかを決めて下さい。