COLUMN経営コラム

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経営分析の基本②|売上総利益(粗利益)について徹底解説!
投稿日:2022.01.28
更新日:2023.04.14
税務経営
売上総利益は、簡単にいうと、売上高から売上原価(仕入高)を差し引いた利益のことです。別名として「粗利益」という言い方もあり、こちらの方が馴染み深いかもしれません。
この記事では、売上総利益(粗利益)について、徹底的に掘り下げた解説をしていきます。また、経営指標としての売上総利益率(粗利益率)の評価の方法も詳しく説明します。
以下のような疑問をお持ちの経営者にとって、特に有用な情報です。
- 売上総利益(粗利益)とは何か?
- 売上総利益率(粗利益率)と売上総利益(粗利益)との違いは?
- 自社にとってどのくらいの粗利益(率)が適正なのか?
どうぞ最後までお読みいただき、貴社の経営にお役立て下さい。
▼ この記事の内容
売上総利益(粗利益)とは
売上総利益(粗利益)は、下の数式で計算されます。
売上総利益(粗利益)は、事業の利益のもととなる金額です。
なぜなら、以下の関係が成り立つことからも分かるとおり、事業の採算が取れるかどうかを決定づける数字だからです。
売上総利益(粗利益) > 諸経費 → 黒字
売上総利益(粗利益) < 諸経費 → 赤字
売上総利益(粗利益)の計算
売上総利益(粗利益)は前述のとおり、「売上高 - 売上原価」で計算します。
このうち「売上高」については説明不要と思いますので、「売上原価」を以下で詳解していきましょう。
売上原価とは
売上原価は、売った商品やサービスの提供に直接要した原価のこと。例えば小売業・卸売業での仕入高を指します。
その他、製造業などでは製品製造に要する人件費や製造のための設備の減価償却費なども売上原価の構成要素です。
業種別の売上原価について、おおまかな考え方を表にしてみました。
業種 | 売上原価に算入される費用 |
---|---|
小売業・卸売業 | 販売するモノの仕入高 |
製業・土木建築業・農業・林業・漁業 | 製造のための材料費や、製造などにかかる人件費、製造設備の減価償却費など |
サービス業 | 飲食業の材料費などやサービスの外注費 |
サービス業などの一部業種においては、売上原価がゼロという場合もあります。
例えば税理士事務所のように知識やノウハウのサービス提供を主とする業務では、通常、仕入などがなく、売上原価はありません。
なお、会社で複数の事業を営んでいる場合には、事業の種別ごとに分けて売上総利益(粗利益)を計算します。そのためには、売上やそれにかかる売上原価を事業種別ごとに区分して会計処理する必要があります。
さまざまな費用のうち、どこからどこまでを売上原価として捉えるべきかは、会社の事業様態によって異なるため、一概には言えません。
顧問税理士などの専門家とよく相談して、売上原価に算入する項目を確認するようにしましょう。
売上総利益率(粗利益率)とは
売上総利益率(粗利益率)は、粗利益が売上高の何パーセントであるかを示す数値です。
わかりやすくするために例を挙げます。
売上高 | 300 |
---|---|
仕入高 | 210 |
粗利益 | 90 |
この場合、
で、
となります。
売上総利益率(粗利益率)のようにパーセント計算をする利点は、比較するのに便利なことです。
例1:自社内での比較
項目 | 先月 | 当月 | 増減 |
---|---|---|---|
売上 | 700 | 800 | +100 |
仕入 | 320 | 390 | +70 |
粗利益 | 380 | 410 | +30 |
粗利益率 | 54.3% | 51.3% | -3.0 |
月別の売上・粗利益の比較表です。
先月に比べて当月では売上・利益ともに増えており、万々歳という気がしますが、粗利益率を見ると3ポイント減少しており、マイナス要素もあることが分かります。
つまり、当月の売上増は売価を下げて販売個数を増やしたことに起因する可能性があるのです。
もちろん、意図してそのようにしているのであればよいのですが、経営者はこのようなパーセンテージに気を配り、意図しない値下げや現場での不正がないように気をつける必要があります。
例2:他社との比較
項目 | 自社 | 比較他社(A社) | 差(A社-自社) |
---|---|---|---|
売上 | 9,309 | 670,054 | +660,745 |
仕入 | 7,164 | 487,800 | +480,636 |
粗利益 | 2,145 | 182,254 | +180,109 |
粗利益率 | 23.0% | 27.2% | -4.2 |
同業の他社との比較では、事業規模が異なる場合が多く、単純な金額の比較は意味がありません。せいぜい「A社はやっぱりすごいなあ」という感想しか持てないでしょう。
しかし、粗利益率を計算することにより、自社が比較他社に劣っている点(粗利益率が4.2ポイント低いこと)が少なくともひとつ、はっきり判明します。
「H社は我社よりも低い粗利益率で商品を提供している。それに対抗するには(または真似するには)どうすればよいだろうか。」というように経営戦略策定の具体的なきっかけとすることができるのです。
売上総利益(粗利益)額と、売上総利益率(粗利益)率のどちらが重要か?
ほとんどのサイトや書籍では、粗利益「率」の方について説明されています。
そのため、粗利益率の方が重要だと思ってしまいがちですが、現実にまず意識すべきは粗利益額の方です。
項目 | 自社 | 比較他社(B社) | 差(B社-自社) |
---|---|---|---|
売上 | 4,908 | 10,995 | 6,087 |
仕入 | 3,104 | 7,403 | 4,299 |
粗利益額 | 1,804 | 3,592 | 1,788 |
粗利益率 | 36.8% | 32.7% | △4.1 |
他の経費 | 1,902 | 3,540 | 1,638 |
最終利益 | △98 | 52 | 150 |
上の例では、自社はB社よりも優れた粗利益率を達成していますが、最終利益は赤字です。
これでは意味がありません。
目標とはあくまでも利益拡大であり、中小企業にとっての達成目標はまず最初には「率」ではなく「金額」であると考えます。
ただし、「率」を度外視して「額」を追求し過ぎると、従業員や自身に過重な労働を強いることになったり、取引先や仕入先と軋轢を生じる結果を招くこともあるので、バランスを保った経営判断が必要です。
妥当な粗利益率は?
粗利益率を上げたり下げたりするのは、理屈上では簡単です。
- 売価を上げる → 粗利益率UP
- 売価を下げる→粗利益率DOWN
- 原価を上げる→粗利益率DOWN
- 原価を下げる→粗利益率UP
このように、売価と原価を操作すればいいのですが、それぞれ逆の効果もあり得るので、上手にバランスをとって運用する必要があります。
目的(メリット) | 目的の手段 | |
---|---|---|
粗利益率UP | 売価を上げる | 原価を下げる |
<デメリット> | <デメリット> | |
販売個数が減り、結果として粗利益額が少なくなってしまうかもしれない。 | 品質の定価を招き、販売数量が減少する可能性がある。 | |
粗利益率DOWN | 売価を下げる | 原価を上げる |
<メリット> | <メリット> | |
販売個数が増加して粗利益額が増える事も考えられる。 | 高品質の製品を提供することになり、顧客や販売数が増加することもある。 |
粗利益率の設定は高度な経営判断であるため、以下のような要素によっても左右されます。
- 経営者の志向
- 顧客の動向
- 仕入れ材料・原料の市場価格
- 従業員や取引先、仕入先との関係性
よって、「この粗利益率が最適」というような正解はありません。
そこで知りたいのが粗利益率の「目安」です。
粗利益には業種などによってだいたいの目安があります。
いわば「業界標準」または「業界平均」といったもので、通常、「○○業 粗利益率」などと検索すればなんらかの数字が出てきます。
ですが、その数字を目安とするのは、問題がある場合もあります。
次回の記事では、より信頼性の高い粗利益率の目安を求める方法を解説します。