COLUMN経営コラム

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年末調整は税理士に依頼するべき? | 料金の相場はどのくらいか
2021.10.12
税務
年末調整は、従業員や役員などに給与を支払っている事業主や会社が必ず行わなければならない大切な手続きです。
給与の支払者である会社・事業主は、給与の受け取り側である従業員などに代わって、彼らの税金を収める義務を負っています。
本記事では、主に経営者・事業主の方に向け、年末調整の意義や手続きの内容、スケジュールをご説明します。
また、年末調整を自社で行うべきか、税理士に依頼するべきかについても考察していきます。
- 起業したばかりで、年末調整のやり方がわからない
- はじめて従業員を雇ったので、今年から年末調整をすることになった
- 個人事業で従業員はいないが、今年から法人(会社)を設立したので、自分に給与を支払うこととなった
という方は、この記事をお読みいただき、
- 年末調整とはなにか
- 年末調整の流れ
- 年末調整を自分で行う方法
- 年末調整を税理士に依頼するべきか
- 税理士に頼むといくらかかるのか
を学びましょう。
また、会社の経理の方や、年末調整を会社に任せるサラリーマンの方にとっても、年末調整の概要を知っていただくのに最適な内容となっています。
10月になり、年の瀬が近づいてきた今こそ、本記事で年末調整についての知識を得て、準備をすすめるようにしてください。
▼ この記事の内容
年末調整とは
年末調整は、サラリーマンの税金を確定させる手続きです。
収入が1つの勤め先からの給与に限られるサラリーマンは、個人事業主などと違い、確定申告をして税金を収めるという納税の方法をとりません。
サラリーマンの税金は、給与の支払者である会社や事業主が、給与から天引きして預かった税金を本人に代わって納税します。
ただし、毎月の給与から天引きする税金はいうなれば概算の金額です。
一年間の給与をまとめ、各種控除などを考慮した正確な所得税を計算し、天引きしていた税金との差額を調整するのが年末調整の目的です。
年末調整にかかわる用語の説明
これから年末調整の流れなどを見ていきますが、最初に年末調整に関する用語について整理しておきましょう。
以下に記す用語の説明は、年末調整をご理解いただくために必要な情報に絞って、専門外の方がイメージをつかみやすいよう簡略化しています。
より正確な用語の定義については、国税庁のホームページなどでご確認ください。それぞれ、該当のページリンクも記載しています。
給与
給与は労働の対価として支払われるお金など(現物支給など金銭以外によるものを含む)のこと。
基本給に加えて残業代や各種手当、ボーナスもこれに含まれます。
給与所得者
給与を受ける人。いわゆるサラリーマンのことです。
源泉所得税
給与から天引きされる所得税のこと。
短く源泉税とも呼ばれます。
源泉所得税は、給与の額と扶養家族の人数から計算されます。
正確な所得税は、生命保険料などのさまざまな控除などを加味して計算しますので、源泉所得税はあくまで概算の税金です。
源泉徴収義務者
給与の支払者(会社や事業主)は、源泉所得税を天引きしてその税金を給与所得者から預かり、納付しなければなりません。
このことを指して、給与の支払者を源泉徴収義務者といいます。
所得税
所得税は、個人の所得にかかる税金です。
所得は、収入から必要経費を差し引いた、いわゆる利益のこと。
サラリーマンの所得は、給与所得と呼ばれ、給与の収入(額面)から給与所得控除額を差し引いた金額になります。
サラリーマンは個人事業主などと違い、確定申告を行わないため給与を得るために使った必要経費を収入から差し引く事ができません。
そのかわりに、税法で定められた給与所得控除額を差し引くこととなっています。
住民税
住民税は、都道府県民税・市区町村民の総称で、所得税と同じように個人の所得にかかる税金です。
納付する先が国ではなく地方自治体である点が所得税と異なります。
住民税の計算は、所得税の計算結果より市区町村が行います。
住民税は、個人が市区町村に直接納める場合と、所得税と同様に給与から天引きされる場合があります。
サラリーマンの方は、給与から天引きされるケースがほとんどでしょう。
手続き・スケジュール
年末調整の手続きの流れ・スケジュールについて、見ていきましょう。
No | 時期・期限 | 手続内容 | |
---|---|---|---|
年末調整の業務 | 1 | 10月~11月 | 準備・書類の収集 |
2 | 11~12月 | 年末調整の計算作業 | |
3 | 12月 | 源泉徴収票の配付 | |
4 | 12月~翌1月 | 徴収・還付 | |
付随する業務 | 5 | 翌1月末日まで | 給与支払報告書の提出 |
6 | 翌1月末日まで | 法定調書の提出 |
以下、それぞれの内容について説明します。
準備・書類の収集
年末調整に必要な書類を従業員などから集めます。
主な書類は以下のとおり。
扶養控除等申告書
この書類を提出した人が、提出先の会社にとって、年末調整の対象となります。
所得のない配偶者や子ども、その他扶養親族などを申告するための書類です。
所得がないとは、その配偶者や子ども・親族の収入が給与のみで、且つそれが103万円以下である場合などです。
本来は年のはじめ(その年の最初の給与支給前)に会社に提出することとされています。
実際には年末調整の時期(10月~11月)に、いかに掲載している他の申告書と一緒に提出を受けていることも多いでしょう。
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
基礎控除その他の控除を受けるための申告書です。
これらの控除をすべて必要としないサラリーマンはそんなにいないでしょうから、ほとんど必須の書類となります。
提出期限はその年の最後の給与支給の前までとなっています。
多くの場合は10~11月中に提出を求めることになるでしょう。
控除についてごく簡単に説明しておきます。
基礎控除
所得税を計算するときにすべての人が受けられる控除です。控除額は所得金額に応じて0~48万の幅があります。
基礎控除を受けるには、給与所得者が源泉徴収義務者にこの書類を提出しなければなりません。
配偶者控除(等)
配偶者に所得があっても(例えば配偶者の給与が103万超でも)、配偶者を準扶養親族とみなして、扶養控除と似た控除を受けられる場合があります。
控除の可否・金額は、自身の所得と配偶者の所得によって計算され、控除を受けるにはこれを申告する必要があります。
所得金額調整控除
所得金額調整とは、納税者(ここでは従業員などのサラリーマン)本人やその扶養親族が特別障害者であったり、納税者が23歳未満の親族を扶養している場合に、給与所得から一定の金額を控除できる仕組みです。
上記のような場合には、この申告書に記載をすることによって、控除を受け、税金を少なくすることができます。
保険料控除申告書・証明書
生命保険や地震保険の支払額に応じて、所得金額の控除を受けることができます。
そのためには、保険料控除申告書に保険会社などから発行される保険料控除証明書を添えて、給与所得者が源泉徴収義務者に提出しなければなりません。
マイナンバーカードの写しなど
源泉徴収義務者は、国や地方自治体に、従業員等に支払った給与やそれについて計算し、収めた税金を報告します。
その際には従業員等の給与所得者のマイナンバーを記載しなければなりません。
よって、従業員の方からマイナンバーを教えてもらう必要があります。
また、そのマイナンバーが正しいものであることを確認する義務が源泉徴収義務者側にあります。
マイナンバーは非常に重要な個人情報であるため、源泉徴収義務者はこの情報を厳重に保護しなければなりません。
住宅借入金等特別控除申告書・証明書・残高証明
住宅借入金等特別控除は、いわゆる住宅ローン控除のことです。
一般的なサラリーマンの住宅ローン控除は、初年度だけ確定申告する必要があります。
2年目以降は年末調整で控除を受けるのですが、そのためには住宅借入金等特別控除申告書(証明書と一体となっています)と、住宅ローンの残高証明書を提出しなければなりません。
これら書類の収集については、電子的な書類提出方法が認められており、国が推進しています。
電子的な書類提出方法とは、ごく簡単にいえば、スマホやPCなどで従業員が入力したデータを会社に送信することで、紙の書類提出に替えることができるということです。
現在のところ、書類の電子化は義務ではありませんので、慌ててこれに対応する必要はありませんが、電子提出への切り替えの流れは間違いなくあります。
今のうちに手引などを読んでおき、年末調整の書類の電子化について知っておくようにしてください。
年末調整の計算作業
収集した書類と支給した給与の金額をもとに、各人の所得税を計算します。
従業員などから提出を受けた控除申告書を参照し、漏れがないように計算する必要があります。
12月に支給する給与が決定するまでは計算ができないので、給与が翌月払いの場合、11月の勤怠締日以降でなければ年末調整は完了しないでしょう。
源泉徴収票の配付
年末調整の結果にもとづき、従業員などに源泉徴収票を配布します。
年末調整の対象外である従業員にも、一年の給与支給額の証明書として、源泉徴収票を配布します。
徴収・還付
毎月天引きしていた源泉税の合計と年末調整で計算した所得税との差額を精算します。
多くの場合、天引き額合計の方が多額であり、その差額は年末や次回の給与支給時に従業員などに支払います。
これを還付といいます。
逆に、天引きしていた源泉税が正確な所得税に不足しているという場合もあり得ます。
こうしたときは、差額を従業員などの納税者本人から徴収することになります。
法定調書の提出
年末調整の完了後、源泉徴収義務者は、所轄の税務署に法定調書を提出します。
法定調書は、簡単にいうと給与の源泉税など他人から預かって納付した税金の明細を記載した書類です。
給与支払報告書の提出
源泉徴収義務者は、年末調整の結果が記された源泉徴収票とほとんど同一の書類を、従業員などの住所地の市区町村に報告します。
市区町村ではこれをもとに住民税を計算します。
給与支払報告書は、年末調整の対象外である従業員などの分も提出しなければなりません。
年末調整は自分でできる?
年末調整を税理士に依頼せず、自分で行うことができるでしょうか?
条件によっては可能です。
従業員の数などが少なく、経営者に時間的なゆとりがあれば、年末調整を自社で行うのもいいでしょう。
最近では便利なクラウドサービスなどがあり、比較的安価で給与計算から年末調整まで行うことができます。
例えば、マネーフォワード給与、年末調整のようなサービスです。
従業員の人数により異なりますが、数千円/月のコストで、給与計算・年末調整まで一括してカバーできます。
顧問税理士がおらず、確定申告も自身で行っているような個人事業主で、従業員が数名しかいないという規模ならば、このようなサービスを利用することで、年末調整のためだけに税理士に報酬を支払って依頼せずに済みます。
しかし、給与の支給や年末調整の手続きはどちらも期限をきちんと守る必要があり、経営者が毎月・毎年この期限に追われるのはあまり望ましくありません。
経理の担当者に任せたりできるならばよいのですが、年末調整は税理士に任せて経営者は事業に集中した方が効率的である場合が多いと思います。
社会保険労務士は労務関係のプロ
社会保険や労災の手続きなどはクラウドサービスでは行えません。こういった労務手続き関係は結局、経営者が自分で行うか、社会保険労務士に依頼することになります。
労務手続きは、自社で行うこともできますが、毎月行うようなことではないため、手続きのたびに書類の記載方法を調べたりする必要があり、煩雑です。
また、労務関係の諸問題についても、専門家に相談できる環境があった方が絶対に安心です。
給与計算を自社のソフトで行う場合も、顧問として相談できる社会保険労務士と契約しておいた方が無難です。
顧問税理士がいれば、社会保険労務士を紹介してくれると思いますので、はじめて従業員を雇用する場合など、まずは顧問税理士に相談すると良いでしょう。
ただし、社会保険労務士は年末調整の業務を行うことはできません。この点、注意が必要です。
年末調整は税金の計算業務であるため、これを源泉徴収義務者に代わって行うことができるのは税理士に限られるからです。
税理士に年末調整を依頼するときの料金の相場
年末調整は税理士に依頼するのが一番確実な選択です。
クラウドサービス等は年々便利になっていますが、そもそものデータ入力が誤っていれば、税金の計算も正しく行うことができません。
税理士はプロの目でデータを確認しますので、少しでも不自然な所があればすぐに気づきます。
サラリーマンの多くは「年末調整のときにはお金がもらえる(還付される)」ものと思い込んでいます。
ほとんどの場合そのとおり(還付となる)ですが、たまに天引きしていた源泉税の方が少なく、年末調整時に差額を徴収することになる場合もあります。
年末調整で還付金を期待していた従業員から、なぜ逆にお金を払わなければならないのか説明を求められるというのはよくあるトラブルです。
こういった場合、税理士に依頼していれば、その理由がすぐに分かるのですが、税金の知識がなくソフト任せで計算していると、説明に窮する事となるでしょう。
税理士に年末調整を依頼する時にネックとなるのが、料金・報酬です。
年末調整の報酬は、給与の計算データがどのような形式となっているか、従業員の人数などによりかなり幅があります。
実際の料金は顧問税理士に尋ねることとなりますが、大体の目安を記しておきます。
人数 | 料金・報酬の目安 | ||
---|---|---|---|
年末調整 | 給与支払報告書 | 法定調書 | |
1~5人 | 1.5万~3万円 | 5~8千円 | 1~3万円 |
6~10人 | 2.5万~4万 | 8~15千 | 1~3万円 |
11人以上 | 3.5万~ | 15千~ | 1~3万円 |
各税理士事務所の料金体系や、もともとの顧問契約内容などによって大幅に異なる報酬となる場合があります。
まとめ:年末調整は税金のプロである税理士に依頼するのがいちばん
各種サービスが充実してきているとは言え、現在でもまだ年末調整は税理士に依頼した方が安心です。
給与所得者の所得税の計算方法は、毎年なにかしら変更があります。
ここ数年の所得税法の改正は、むしろ年末調整での所得税計算を複雑にしています。
税法の改正は年末調整の簡略化がその目的ではなく、経済政策・福祉政策に沿ってなされるものだからです。
経営者自身と家族だけであればともかく、他人である従業員の税金計算で間違いは許されません。
最新の税法にもとづいた税金の計算を正確に行うために、年末調整は税理士に依頼するようにしましょう。
末松会計事務所では、年末調整のご相談をお受けしています。こちらの問い合わせフォームまたはお電話でお気軽にご連絡下さい。
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