COLUMN経営コラム

COLUMN経営コラム

粗利益率の業界平均を調べる|○○業の平均的粗利益率は何%?

2022.02.04

税務

前回の記事では、粗利益率の基礎を学びました。

今回は、粗利益率の業界平均の調べ方を説明します。

  • 自社の粗利益率が適正かどうか知りたい
  • 事業計画を策定するために、起業する業種の粗利益率がどのくらいか調べたい

といった方にオススメの内容です。

他サイトの記事にはない専門性の高い内容を、わかりやすく、噛み砕いて説明しています。

また、実例を用いて粗利益率の業界平均を求める手順を詳解していますので、誰でも簡単に、粗利益率の業界平均を調べることができるようになります。

どうぞ最後までお読みいただき、貴社の経営計画・事業計画などにお役立て下さい。

ネット検索で粗利益率の業界平均を調べてみる

「〇〇業 粗利益率」といったワードでの検索で、大まかな業種別粗利益率が分かります。

例えば、「飲食業 粗利益率」でGoogle検索してみましょう。

本記事執筆時点の筆者の環境では、以下のような検索結果となりました。

google検索画面

ここから、「飲食業の粗利益率平均は60~70%らしい」ということが分かります。

ですが、この値には以下のような問題があります。

  • 60%~70%という範囲が広すぎる。
  • 「飲食業」といっても、例えばラーメン店とスナックを同じには考えられない。

こうした問題点を解決するために、より詳しい「粗利益率のデータ」が必要です。

詳しい粗利益率データを無料で取得する方法|経済センサスを利用する

詳細な粗利益率のデータを得るために、経済センサスを用いて粗利益率の業界平均を調べる方法を説明します。

経済センサスは、総務省が中心となって、5年ごとに行われる事業活動の実態調査です。

粗利益率の業界平均を調べるのに経済センサスが優れている理由として以下の3つが挙げられます。

  • 公的機関が集計しているデータであり、信頼性が高い
  • 細かい業種区分でのデータが得られる
  • 無料で利用できる
経済センサスについては、こちらの記事でも詳しく説明しています。

ではこれから、経済センサスを利用して「粗利益率の業界平均」を求める方法を解説していきます。

経済センサスの統計データから粗利益率の業界平均を求める

経済センサスの統計データから業種ごとの粗利益率平均を求めるには、概ね以下の手順によります。

① 調べたい業種を絞り込む。

② 絞り込んだ業種区分の売上高・売上原価のデータを取得し、粗利益率を計算する。

③ 必要に応じて、事業規模・地域性による平均粗利益率の補正を行う。

以下、それぞれの手順について詳しく説明していきます。

わかりやすくするために、ここでは名古屋市内で営業する中華料理店をモデルケースとして進めていきます。

モデルケースの会社
業種中華料理店
売上高2,400万円/年
地域愛知県名古屋市

① 調べたい業種を絞り込む。

経済センサスで業種別のデータを取得するには、まず目的とする業種を特定します。

経済センサスでは、独自の業種区分を採用しており、詳細はこちらから確認できます。

業種確認画面_1

上の画面のように、「キーワード検索」の欄に調べたい業種を入力し、🔍ボタンをクリックすると、ページ下部に検索結果が表示されます。

中華料理店の分類コードは「76B」であることがわかりました。

② 絞り込んだ業種区分の売上高・売上原価のデータを取得し、粗利益率を計算する。

業種の分類コードが特定できたところで、その業種の売上高と売上原価のデータを取得します。

このページにアクセスして、「DB」ボタンをクリック。

小分類_1

すると、下のようなデータが表示されます。

これは、全業種の全データを網羅した表ですので、必要な情報に絞り込んで整理します。

小分類_2
上記画面上の「表示項目選択」タブをクリックして、

小分類_3

こちらの設定画面から情報を絞り込んでいきます。

  • <1>「表章項目」で「売上高」と「売上原価」を選択する。
    小分類_4
  • <2>「単一・複数」で「総数」だけにチェックを入れる。
    小分類_5
  • <3>「産業分類」で目的の業種だけにチェックを入れる(本例では「76B:中華料理店」)。
    小分類_6

結果、細かい業種ごとの、売上高・売上原価の合計がそれぞれ求められます。

小分類_7

そこまで求めたところで、計算が必要です。

粗利益率 = (売上高 – 売上原価) ÷ 売上高

ですから、本例で言えば、中華料理店の粗利益率平均値は、

( 1,568,038 – 370,012 ) ÷ 1,568,038 = 76.4%

と算出できます。

とりあえず、こうして求めた粗利益率を基準(目安)としても差し支えないでしょう。

この段階で既に、最初にネットで検索した60%~70%という数字から逸脱していることに注目して下さい。

信頼すべき統計データから得られる粗利益率の平均は(中華料理店の場合)、あくまで76.4%です。

③ 必要に応じて、事業規模・地域性による平均粗利益率の補正を行う。

これまでの作業で得た粗利益率平均値は、あくまで全国平均であり、以下の要素を無視した数値です。

  • 1. 事業規模による粗利益率の変動
  • 2. 地域による粗利益率の変動

より詳細な、業界平均粗利益率を求めるために、これらをどの程度加味するべきでしょうか?

答えを先に言ってしまいましょう。

現実的には、ほとんどすべての業種において、

  • 事業規模による粗利益率の変動 → 影響を無視するべきではない。
  • 地域による粗利益率の変動 → ほぼ無視してよい。

となります。

なぜそうなるのか?

まずは、「事業規模による粗利益率の変動」について見ていきましょう。

事業規模による粗利益率の変動

粗利益率は、事業規模によって大きく異なります。

下の表は、売上高規模による粗利益率の変化を示すもので、経済センサスの統計データから導き出したものです。

粗利益率_売上高別

全業種平均で、上は96%、下は38%と、明らかに無視できないパーセンテージの開きがあります。

また、一般的に、売上高規模が大きいほど、粗利益率が小さくなる傾向が明らかです。

そこで、事業規模に応じて、基準とすべき粗利益率を調整する必要が生じます。

事業規模(売上高)から粗利益率を割り出す

残念ながら、経済センサスには、小分類別・事業規模別のデータがありません。

しかし、もう少し大まかな中分類までなら、事業規模別の粗利益率が確認できます。

中華料理店の上位分類(中分類)は「飲食店」です。では、飲食店について、売上高別の粗利益率を見てみましょう。

こちらのページから調べを進めます。

「DB」ボタンをクリックし、「② 絞り込んだ業種区分の売上高・売上原価のデータを取得…」と同じ要領で、

  • 「表章項目」で「売上高」と「売上原価」を選択。
  • 「産業分類」で目的の業種だけにチェックを入れる(本例では「76:飲食店」)。

というふうに絞り込みます。すると、

中分類売上高別_1

のような表示になるはず。

上図の表示では分かりにくいので、レイアウトを変更します。

上記画面の「レイアウト設定」をクリックして、

中分類売上高別_2

上の画面のとおりに設定しましょう。

結果、下のような表示になると思います。

中分類売上高別_3

それぞれの粗利益率を計算した結果は以下のとおり。

売上規模粗利益率
【総数】72.8%
300万円未満99.6%
300~1,000万円未満98.9%
1,000~3,000万円未満94.8%
3,000万円~1億円未満83.6%
1~3億円未満71.9%
3~10億円未満68.3%
10~100億円未満65.3%
100億円以上61.6%

さて、上の表を見てどう考えるべきでしょうか?

今回、モデルケースである事業の売上高は2,400万円です。

上の表に当てはめれば、平均粗利益率は94.8%となっています。

詳細な業種区分による「中華料理店」では76.4%。飲食店の売上規模「1,000~3,000万円未満」では94.8%。
ずいぶん違います。
いったい、どちらの数字を業界平均とすればよいのでしょうか?

「中区分」の「飲食店」には、バーやスナックなど、アルコール飲料の提供を主体とした非常に粗利益率が高い業種も含まれています。

ですから、『飲食店の売上規模「1,000~3,000万円未満」→ 94.8%』をそのまま採用することはできません。

本記事で推奨するのは、「業種区分による粗利益率を売上規模に応じて修正する」方法です。

具体的には、以下の式で粗利益率の業界平均を求めます。

A = 小区分による粗利益率

B =(該当する売上規模別の粗利益率 – 【総数】粗利益率) ÷ 【総数】粗利益率

C = 係数(※後ほど説明)

粗利益率の業界平均 = A × (1+(B × C))

モデルケースの中華料理店で試してみましょう。

A《小区分による粗利益率》 = 0.764

B《(売上規模別の粗利益率 – 【総数】粗利益率) ÷ 【総数】粗利益率》 = (94.8 – 72.8)÷ 72.8 = 0.302

C = 0.4(※後ほど説明)

粗利益率の業界平均 = A × (1+(B × C))= 0.856 → 85.6%

よって、売上高2,400万円/年規模の中華料理店においては、85.6%程度の粗利益率が平均的であるという結果になります。

この計算の中では、「C = 係数」がポイントとなりますが、これは恣意的なもので、絶対的な数値はありません。

ですが、ここでは、敢えて当サイトが算出した「C = 係数」の参考値を掲載します。

算出については、非常に複雑な計算手続きを経ていますが、ここでは結果だけを掲載します。

以下に掲載する係数は、あくまでも独自の集計によるもので、必ずしも貴社の事業計画や経営計画にふさわしい数値ではない場合があります。
C:係数業種区分
1.0(25)はん用機械器具製造業、(33)電気業、(34)ガス業、(35)熱供給業、(40)インターネット附随サービス業、(42)鉄道業、(49)郵便業(信書便事業を含む)、(57)織物・衣服・身の回り品小売業、(73)広告業、(84)保健衛生、(86)郵便局、(89)自動車整備業
0.9(43)道路旅客運送業
0.8(3)漁業(水産養殖業を除く)、(83)医療業、(92)その他の事業サービス業
0.7(8)設備工事業、(31)輸送用機械器具製造業、(39)情報サービス業、(59)機械器具小売業、(75)宿泊業、(95)その他のサービス業
0.6(5)鉱業,採石業,砂利採取業、(15)印刷・同関連業、(36)水道業、(44)道路貨物運送業、(47)倉庫業、(54)機械器具卸売業
0.5(55)その他の卸売業、(71)学術・開発研究機関、(81)学校教育
0.4(7)職別工事業(設備工事業を除く)(14)パルプ・紙・紙加工品製造業(24)金属製品製造業(27)業務用機械器具製造業(32)その他の製造業(38)放送業(41)映像・音声・文字情報制作業(46)航空運輸業(76)飲食店(90)機械等修理業(別掲を除く)
0.3(11)繊維工業、(77)持ち帰り・配達飲食サービス業、(82)その他の教育,学習支援業、(85)社会保険・社会福祉・介護事業
0.2(2)林業、(10)飲料・たばこ・飼料製造業、(13)家具・装備品製造業、(16)化学工業、(18)プラスチック製品製造業(別掲を除く)、(19)ゴム製品製造業、(20)なめし革・同製品・毛皮製造業、(30)情報通信機械器具製造業、(51)繊維・衣服等卸売業、(69)不動産賃貸業・管理業
0.1(6)総合工事業、(21)窯業・土石製品製造業、(23)非鉄金属製造業、(26)生産用機械器具製造業、(52)飲食料品卸売業、(56)各種商品小売業、(60)その他の小売業
0.0(1)農業、(4)水産養殖業、(9)食料品製造業、(12)木材・木製品製造業(家具を除く)、(17)石油製品・石炭製品製造業、(22)鉄鋼業、(28)電子部品・デバイス・電子回路製造業、(29)電気機械器具製造業、(37)通信業、(45)水運業、(48)運輸に附帯するサービス業、(50)各種商品卸売業、(53)建築材料,鉱物・金属材料等卸売業、(58)飲食料品小売業、(61)無店舗小売業、(62)銀行業、(63)協同組織金融業、(64)貸金業,クレジットカード業等非預金信用機関、(65)金融商品取引業,商品先物取引業、(66)補助的金融業等、(67)保険業(保険媒介代理業,保険サービス業を含む)、(68)不動産取引業、(70)物品賃貸業、(72)専門サービス業(他に分類されないもの)、(74)技術サービス業(他に分類されないもの)、(78)洗濯・理容・美容・浴場業、(79)その他の生活関連サービス業、(80)娯楽業、(87)協同組合(他に分類されないもの)、(88)廃棄物処理業、(91)職業紹介・労働者派遣業、(93)政治・経済・文化団体、(94)宗教

結論!|粗利益率の業界平均の計算式はズバリこのとおり!

繰り返しになりますが、粗利益率の業界平均の計算式は、

A = 小区分による粗利益率

B =(該当する売上規模別の粗利益率 – 【総数】粗利益率) ÷ 【総数】粗利益率

C = 係数(※上の表を参照)

粗利益率の業界平均 = A × (1+(B × C))

となります。

粗利益率は、経営計画・事業計画の策定にあたって基礎となる大切な数値です。

次回の記事では、今回説明できなかった粗利益率の地域性、粗利益率の現実的な利用方法について説明します。

アバター画像

この記事の執筆者

末松和真

税理士法人FLAGS代表社員。税理士。 (株)FLAGSホールディングス 代表取締役 税理士として税務・会計はもちろんの事、経営支援・クラウド会計支援・融資実行・補助金に強く、幅広い知識とサービスで企業の成長を支援している。