COLUMN経営コラム

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法人(会社)の決算は税理士’なし’でできるのか?|自分で法人の決算・申告を行う方法・可能性を探る

2021.07.13

税務

法人、特に中小企業の会社経営者の方は、税理士に決算と税金の申告を任せている場合がほとんどだと思います。
法人(会社)の決算や税務申告は、個人の確定申告にくらべて手続きが複雑で書類も多く、プロに任せるのが一番安心なのは言うまでもないことです。

ただ、税理士に支払う顧問料や決算報酬は決して安くありません。
特に個人事業で確定申告を自分でしたことがある経営者は「自分で法人の申告や決算ができたら年間◯十万円のコストカットになるのに…」と考えたことがあるのではないでしょうか?

この記事では、法人の決算・申告を税理士に任せず、自分で行う方法・可能性をとことん追求してみます。

・法人(会社)の決算を税理士なしでできる方法はないか

・税理士なしで決算・申告するとどんなメリットやデメリット・リスクがあるのか

といったことをお知りになりたい方の、お役に立てれば幸いです。

法人の決算とは? 個人の確定申告と何が違う?|最重要!3つの違いを解説

法人(会社)は必ず毎年、決算を行い、法人税(及び消費税等)を申告しなければなりません。決算の日は法人が設立時などに設定した日です。税金の申告は原則その2ヶ月後までに行います。
このあたり、個人事業主の確定申告と似ています。個人の場合は決算の日が毎年末に限られており、申告期限が原則3/15に固定されている(消費税は3/31)といったところがちょっと違っています。(※1)。※1:新型コロナの影響などにより、各申告期限は延長されている場合があります。

では、法人(会社)の決算・申告と個人事業主が行う確定申告とのもっと本質的な違いは何でしょうか?
法人の決算と個人の確定申告の、もっとも重要な3つの違いを以下にまとめてみました。

1. 分量が違う
誰にでも分かる一番の違いは提出書類の分量です。個人の確定申告はA4サイズで印刷した場合通常5ページ程度、多くても10ページ程度におさまります。
対して法人の決算・申告は少なくとも30ページ程度になります。法人(会社)の決算・申告を行うには、これだけの書類を作成しなければならないということです。ページ数だけでみても作成に必要な人的・時間的コストは少なく見積もって5倍以上と言えるでしょう。

2. 求められる精度が違う
個人の確定申告書・決算書は、基本的に所得税や消費税の計算のために作成するものです。
法人(会社)の決算は違います。法人税や消費税などの申告も大切な義務ですが、法人の決算は大きな社会的責任を伴います。法人(会社)の決算書は税務署の他に、借り入れをしている(これから借り入れを申し込む)金融機関や与信を行う取引先、補助金を受ける場合などには補助金の給付機関などに提出することがあります。そしてもちろん、決算書は株主に提示し、株主総会で承認を受ける必要があります。プロの目で見れば、決算・申告の虚偽記載はもちろん、大きな誤りもすぐに見抜かれてしまいます。法人(会社)の決算は「間違っていたら追加の税金を納めればいい」というものではなく、はるかに重い責任を伴い、高い精度で行う必要があるのです。

3. 作成ソフトが違う
IT時代の現代に法人(会社)の決算を手書きで行うことは皆無だと思われます。個人も同様で、今はたくさんの便利なサービスやソフトウェアがありますから、ほとんどの経営者や会計事務所・税理士事務所がこうしたソフトを利用しています。
一般的に、法人税申告を行うためには、個人の確定申告を行うためのソフトウェアよりも高度な機能を必要とします。そのため法人税申告ができるオンラインサービス・ソフトウェアは個人の確定申告用のものよりも高額です。
また、法人(会社)の決算はソフトを手に入れたら簡単にできるというものではありません。簡便な操作を特長とする某会計・申告サービスの法人税申告マニュアルページ

※これらは、トップページの見出しだけで30項目超。更に各項目のリンク先ページに数十字~数千字の解説があります。※これらのサービスの名誉のために一言。サイトの説明は最大限簡潔に、しかも大変分かりやすく書かれています。それでもこのくらいの量なのです

法人(会社)の決算を税理士なしで行うメリット・デメリット|リスクについても解説します

税理士の手を借りずに決算・申告すると、どんなメリットやデメリットが生じるでしょうか?
それぞれについて詳しくみていきましょう。

法人(会社)の決算を税理士なしで行うメリット

法人(会社)の決算や税務申告を、税理士なしで行う利点(メリット)には以下のようなものが考えられます。
メリットといっても良いことばかりではありません。その点に注意しながらお読みください。

コストカット
税理士の顧問料や決算料・申告料は、年間累計で数十万~数百万かかる(中小企業の場合)でしょう。これを削減できれば大きなコストカットになります。ただし、自社で決算や税務申告を行うことによって増加する経営者や担当者の労務コストなどとのバランスには気を付ける必要があります。

【注意!】決算・申告の内容を自由にできる?(何でも自由にしてはダメです)【正しくはメリットではありません】
法人が自身で決算・申告を行うのであれば、(法律・信義則・慣習などを全て無視すれば)決算・申告の内容を思いのままにできるということになります。「◯◯は経費にならない」などと言ううるさい税理士がいないのですから、何でも思うがままです。
しかし当然ですが、決算・申告は虚偽の記載はもちろん、重大な過誤があっても犯罪となる可能性があります。法人の決算・申告で、法律から逸脱した会計処理や税務処理を行うことは絶対に許されません。
不正が発覚すれば、法人(会社)や、経営者自身・従業員の社会的信用を損なうことになります。一応付け加えますが、重大な過誤や不正がバレないなどということはあり得ません。

税理士なしで法人の決算を行うデメリット

税理士なしで決算や税務申告を行うことには、デメリットもつきまといます。

信頼性・客観性を担保するのが困難
法人(会社)が自身で作成した決算書と、第三者である税理士が作成した決算書ではどちらが客観性に優れているかは、誰の目にも明らかです。
金融機関等は、税理士などの第三者の手が入った決算書の方に信頼を置きます。
逆に考えると、法人(会社)が自身で作成した決算書・申告書の説得力・信頼度は低くなってしまうということになります。

「中小企業の会計に関する基本要領の適用に関するチェックリスト」が用意できない
上記の「信頼性・客観性」と重複するところがありますが、重要なことなので記載します。「中小企業の会計に関する基本要領の適用に関するチェックリスト」は、日本税理士会連合会が作成したチェックシートです。法人(会社)の会計処理が中小企業庁が定める「中小企業の会計に関する基本要領」に従っているかを確認するためのシートとして利用されています。
金融機関に決算書等を提出するときに、このチェックリスト(税理士の署名付き)を求められることが多くあります。これが添付できないと借り入れなどを受けられないことがありますので、注意が必要です。

自社での決算・申告にはリスクもある!

法人(会社)が、自社で決算・税務申告をするのには、デメリットだけでなく「リスク」もあります。
自身での決算・税務申告をする際にはこれらのリスクに、特に気をつけるようにしてください。

・税務調査の脅威!
法人(会社)を経営していると、いつかは税務調査が入ります。利益が少なかったり、赤字であっても税務調査は避けられないものと考えてください。税理士に申告書を作成してもらっていれば、安心して調査を受け入れることができます(税理士が税務調査に立ち会い、調査官に対応してくれる)が、法人(会社)独自で決算・申告している場合は税務署の調査官の厳しい質問などへの対応に苦しむことになるでしょう。また、税務調査の調査対象選別の基準は知りようがありませんが、税理士と契約していない法人(会社)は申告内容に過誤がある可能性が大きいとして調査対象になりやすいといったことも考えられます。

法人(会社)にとって有利・不利な情報を見逃してしまう
法人税・消費税・地方税ほか、企業が支払わなければならない税金の種類は多くあります。また、特に中小企業が利用できる税制上(ほか、行政上)の優遇措置や補助金・助成金などもたくさんあります。
経営者がそれらの情報を全て把握するのは困難です。税理士は日々、これら企業にとって大切な情報を収集しています。新たな制度や法律などが顧問先の法人(会社)にとって有益な(または不利な)ものか、有効に利用するにはどうすればよいか(不利なものであれば回避する方法を)常に研究しています。もし、法人(会社)独自で決算・税申告ができる体制を整えたとしても、こうした情報に乗り遅れて思わぬ不利益を被ってしまうという可能性があります。

それでも自社で決算・申告したい!方法はあるのか?|本当に使える税理士なしでの申告方法を解説

法人(会社)が自身で決算・税務申告を行うことにはリスク・デメリットの方が大きいということはお分かりいただけたと思います。
それでも税理士なしで法人の決算・申告をしたいという方のために、その方法をご説明します。

まず知っておいて欲しい!|「法人税申告の解説サイト」は実践的ではない!

インターネット上には、法人の決算や法人税・消費税の申告を税理士なしで行うための親切な解説がたくさんあります。
どれも大変丁寧に書かれており、読んだ人には法人税などの勉強になることと思います。

しかし、残念ながら素人が読んだだけで法人の決算・申告ができるとは思いません。長時間を費やしてサイトを読んだ後、大抵の人は「自分には無理だ」という結論にたどりつくことでしょう(最初からそれを狙って書かれているサイトも多くあります)。

こういうサイトを参考にしながら法人の決算・申告を行うのは、絶対に無理とまでは言いませんが、相当困難です。

本当に使える税理士なしの法人決算・申告方法

では、実践的な「税理士なしの法人決算」の方法はあるでしょうか?
実は、あります。
以下、2つの方法を紹介します。

経営者自身(または経理担当者)が税理士なみの知識を身につける
税理士を不要とするには、自分が税理士なみになってしまえばよいという考えです。ただ、本当に税理士なみの専門家になるには多大な時間と労力を必要とします。
また、専門の税理士は常に最新情報を探り、周辺知識の取得にも日々精進しています。
税法をはじめとして制度や法令も、日々更新されています。仮に一旦、税理士並みの会計・税務知識を身につけたとしても、時代に合わせてスキルや情報を維持するのは困難でしょう。

税理士有資格者や、税理士事務所経験者の法人決算ができる経理担当者を雇う
これが実現できれば、法人(会社)の決算・申告を自社の人間に任せることができます。有資格の税理士であれば、社内の人間(もしくは監査役等の役員)であっても客観性・信頼性はある程度保てるでしょう。税理士や公認会計士でなくとも、十分な経験者であれば法人の決算や申告書作成はできると思われます。注意点としては、税理士事務所へ支払う顧問料や決算料よりコストが高くなる可能性が大きいことです。

以上を見ていただくと、「実践的ではないじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、これが現実なのです。
結論として、自社で法人の決算や税務申告をやりたい経営者の方は、法人の決算・申告書作成ができる人材を安価で雇うしかありません。

まとめ:法人の決算・申告には税理士が不可欠!|だからこそ税理士をうまく活用しましょう!

以上ご覧いただいたように、法人の決算・申告には税理士が不可欠です。
税理士に払うコストが避けられないものならば、税理士を有効活用することを考えましょう。
税理士の上手な使い方としては、

税理士とこまめにコミニュケーションをとる
税理士も税理士事務所の担当者も人の子です。いつも頼ってくれる人の力になりたいと思うのは当然です。担当者や所長税理士などと会う機会をできるだけ増やし、腹を割った話ができる仲になりましょう。そうすれば、税理士や担当者もより親身に相談に乗ってくれるようになり、彼らの能力を最大限発揮してくれるようになります。

税金のこと以外でも色々と相談してみる
税理士は多種多様な人間と付き合いがあり、「他人の人生」に関わった経験が豊富です。悩み事があれば、税理士や税理士事務所の担当者に話してみれば何か道がひらけるかも知れません。税理士や税理士事務所担当者の人脈の広さもうまく使えば大きな武器になります。

以上、税理士とこういった付き合い方ができれば、顧問料や決算報酬を高額とは感じなくなるでしょう。

結論として、コストカットのために決算や税務申告に自社のリソースを割くよりは、税理士をうまく活用して会社経営をより円滑にすすめる方が有用だと考えます。

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この記事の執筆者

末松和真

税理士法人末松会計事務所代表社員。税理士。 (株)FLAGSコンサルティング 代表取締役 税理士として税務・会計はもちろんの事、経営支援・クラウド会計支援・融資実行・補助金に強く、幅広い知識とサービスで企業の成長を支援している