COLUMN経営コラム

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会計ソフトやAI(人工知能)の発達によって税理士がいらない時代が来る?
投稿日:2021.09.19
更新日:2023.04.25
経理クラウド
税理士などの職域を脅かしているとされる、新しい技術が台頭してきています。
代表的なものは、AI(人工知能)とクラウド会計システムの2つです。
こうした状況下で、AIとの競争に負けないため、AIと共存するために税理士がどのようにするべきかということについては頻繁に触れられてきました。
ネット上でもそうした内容の記事を多く見ることができます。
本記事では、利用者(経営者など)の立場からAI時代の税理士像を考えます。
税理士はAIに淘汰され、不要になってしまうのか、という疑問への答えは先に言ってしまいましょう。
それはなぜでしょうか?
本記事では、税理士が今後とも必要であり続ける理由について説明したいと思います。
AI時代における税理士の必要性をご理解いただくことで、経営者や個人事業主の皆様がより上手に税理士を活用できる一助となると考えるからです。
特に、
- 税金の申告のために税理士とは仕方なく契約している。
- これから起業するが、税理士との契約は不要なのではないかと思う。
といった方は、この記事をご一読いただき、税理士という専門家の存在意義・イメージを一新していただきたいと思います。
税理士の役割を正しく認識し、上手に利用することで、事業の成功にお役立てください。
▼ この記事の内容
税務・会計・経営判断におけるクラウド会計・AI技術の現在
近年、クラウド技術を利用した会計システムが急速に発展。これらのサービスの多くは、請求書発行などをカバー、レシートを電子画像(写メなど)で取り込む機能なども備えています。
そうして集積した売上や経費の情報をもとに、個人事業者の確定申告作成はもとより、法人税や消費税の申告書作成、更にはインターネットを通じて税務署に各種申告書を送信する機能までも備えたサービスも少なくありません。
AIを始めとする近年のコンピュータ技術が会計・税務・経営判断に及ぼす影響について見ていきましょう。
会計・税務:小規模で、税務申告のためだけのデータ集計なら、システムが十分に機能する
機械的な会計作業においては、クラウド会計システムがAIと連携することにより、人間が行っていた業務の大部分を代替できるようになってきました。
個人が営む小売業や飲食業・サービス業などではこうしたシステムの会計処理で問題ないレベルに達しています。
管理会計:経営管理のための細やかな会計処理には、まだまだ人間の判断が必要
会計処理には、経営管理上の目的もあります。こうした目的にはAIも完全には対応できません。
例えば、旅費交通費・人件費・減価償却費など、分類がはっきりしない経費があります。
個人の確定申告であっても、特に建設工事業などでは、これらが「売上原価」に属するのか「その他経費」なのかを判断する必要があります。
これは税額にも影響しますので、管理会計上の問題だけではありません。
事業の規模が大きくなると、例えば同じ人物に対する給与を売上原価・一般の人件費・システム開発費などに分類する必要が生じます。
こういった分類をAIにある程度任せることも可能になってはいますが、更なる技術的なブレイクスルーがなければ、完全に機械任せにすることは困難でしょう。
経営判断:事業はゲームではない!|AIが経営判断を歪める可能性
AIの発達により、コンピュータが、単純な計算速度だけでなく、戦略的な判断においても人間を凌駕する分野が出てきました。
例えば将棋のような知的ゲームで人間がコンピュータに勝てなくなったことは象徴的な例です。
したがって、事業をゲームと捉え、最大利益・最小損失を追求するならば、将来的に、AIが最適解を出す可能性はあります。
しかし、現実の経営者は、会社の目先の利益だけでなく、将来性・長期計画や雇用との関係など、様々な要素を勘案して経営判断を下します。
これらの要素の優先順位などもいつも同じではありません。
こうした経営者の思いまで汲み取った経営判断の相談相手となるには、AIはまだまだ未発達です。いつかそうしたことができるようになるとしても、遠い未来のことになるでしょう。
AIによって、税理士はむしろ存在価値を増していく
税理士がAIに取って代わられるという言説のはじまり
「税理士は、近い将来不要となる」という話のもととなっているのは、2014年9月にAI研究者のMichael A. Osborne博士が発表した「THE FUTURE OF EMPLOYMENT(邦題:雇用の未来)」という論文です。
この論文では、AIに取って替わられると予想される職業を具体的に挙げています。その中に「簿記、会計、監査の事務員」「税務申告書代行者」があり、98%の確率で10年以内にこれらの仕事が「自動化される」と論じています。
これを日本のマスコミが報じると、「会計・税務は(近い将来に)機械(コンピュータ)が代行できる仕事である」という認識が一気に広まりました。
日本の税理士業界では、2015年くらいから盛んな話題となり、税理士にとっては自身の社会的役割や仕事の意義について考え直すきっかけとなりました。
その結果、業務・サービスの改善に成功した税理士事務所も多く、このこと自体は税理士や顧問先の経営者によい影響を与えたと言えるかも知れません。
税理士は年々増加している
少なくとも日本では、この論文で言われたような現象は起きませんでした。
本記事執筆の今は2021年9月。上記論文の予言を信じるなら、あと3年で税理士の仕事はなくなることになります。
2014年以来、税理士の人数は減っているのでしょうか。
日本税理士会連合会の資料で確認してみます。
税理士の総数 | 新規登録者数 | |
---|---|---|
2014年 | 71,060人 | 2,906人 |
2019年 | 78,028人 | 2,648人 |
新規登録者数は減っています(表にはありませんが、税理士の国家試験受験者はもっと減少しています)が、税理士の総数は逆に増加しています。
受験者・新規登録者数の減少は、AIとの競合の結果ではなく、日本全体の少子高齢化の影響とみるべきでしょう。
税理士の総数は増え続けています。ちなみに2021年8月時点の総数は79,696人となっています。
税理士が人間である必要性
税理士という仕事が、AIに完全に置き換えられない理由は数多くありますが、ここでは代表的なものを3つ紹介します。
経営上・税法上の助言は、結論だけでは足りない
上でも述べましたが、経営判断は多面的に行うため、現状AIは人間の経営者に寄り添った助言を行うことが出来ません。
「利益を最優先する場合はこうするべきである」など、条件を限定した上での判断ならばある程度できるでしょう。
その場合でも、経営者が納得できる理由を示せるかは疑問です。
「AIが指示したから」というだけでは経営者は行動を起こすことができません。それでは税理士どころか経営者の存在価値がなくなってしまいます。
コンピューターは、条件を決めてやれば、答えを出すのは得意なのですが、そこに至った理由・道筋を人間にわかりやすく伝えるにはまだ実力不足です。
つまりAIは、説得力のあるプレゼンが出来ないということです。
AIが税務をこなすには、「AIのための」税法の整備が必要となる
税法をはじめとした法律は全て、人間が制定したものです。
法律の条文は、誤解を生じないように注意深く作られるのですが、多くの場合は多様な解釈が可能だったりします。
そうした隙間は、通達などの行政文書で埋められるのですが、それでも専門家である税理士ですら解釈に迷うことがあります。
税理士は、過去の事例や関連・類似する他の条文など、また、その法律制定の主旨・背景を詳細に調べ、勘案して法律や通達の意味するところを判断します。
このような事態にAIが適切に対応できるとは思えません。
AIが税務を完全に処理できるようになるためには、税法を、プログラム言語のように一意的な解釈しか許されない記述に改める必要があるでしょう。
そのような過度に単純化された税法はAIのための法律になってしまい、国民の生活や経済活動にとってマイナスとなりかねません。
AIのミスは誰の責任なのか、税法以外の法整備も不可欠
コンピューターは間違えないと決めつけてはいけません。
結果を伴わないことはあり得ます。
では、AIが税務上、経営判断上の間違いを犯したとき、その責任は誰がとることになるでしょうか?
こういった問題に対しても法律などの整備が必要です。
法整備の前に、AIの判断・行動に関する責任問題については人間の側の共通認識が未だ全くできていないと言っていいでしょう。
まとめ:税理士とAIの関係は競合ではなく共存となる
この記事は、AIなどの技術発展に異を唱えるものではありません。むしろ、コンピューターなどの技術進歩は基本的には社会全体に有益(であって欲しい)と考えます。
それでも私達の生活する社会にとって、企業経営者の方々にとって、税理士は現在も今後も必要です。
その理由についてはこの記事で述べてきました。
これからの税理士は、AIでもできる仕事を任せることによって、より重要で専門的な仕事に集中することが出来ます。
経営者の方は、経営理念をはじめとした自分の思いを税理士と共有し、より人間的・専門的なアドバイスを受けられるような関係を税理士と築くように心がけましょう。
もちろんそれは、税理士の方が(経営者以上に)目標とすべきであることは言うまでもありません。