COLUMN経営コラム

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不動産所得の確定申告は税理士に依頼すべきか? | 報酬の相場は?

2021.10.18

税務

土地や家屋などの不動産を他人に貸して、定期的な賃貸収入を得るというのは魅力的なビジネスです。
ビジネスは大げさだとしても、毎月数万~数十万の定収入があれば嬉しいことでしょう。

利益があるところには必ず税金の問題も発生します。

本記事では主に個人が得る副収入としての不動産収入とそれにかかる税金を扱います。
不動産の賃貸を専門に行っている個人や組織の方にとっても充分に役に立つ内容です。

これから、

  • 不動産収入にかかる税金の仕組み
  • 税理士が必要か否か
  • どこまで自分でやれるのか

などについて説明していきます。
特に、

  • はじめて不動産収入の確定申告をする。
  • これから不動産投資を考えているが、税金のことが分からない。
  • 不動産の利益にかかる税金の申告にふさわしい税理士を探している。
  • 不動産収入の確定申告を税理士に依頼するときの報酬について知りたい。

という方に、ご一読をおすすめ致します。

不動産収入の主なタイプ

副収入としての不動産収入の代表的なものは2つ。
本記事では主にこの2つのケースを想定しています。

リロケーション

一時的な転勤などにより空いた自宅を賃貸すること。

転勤などで一家全員が引っ越すことになっても、異動が期間限定で、戻ってくることが予想される場合など、自宅を所有したままにしておきたいこともあるでしょう。

空いている期間に自宅を貸して家賃を得られれば、住宅ローンや固定資産税の支払いに充てることができます。
これは有効な選択肢です。

この場合、別段利益を得ようという考えがなくても、税法上は不動産所得となり、立派な課税対象です。
税金がゼロであったり、むしろ節税できる可能性もあるのですが、それでもほとんどの場合、確定申告をする必要があります。

不動産投資

ここでいう不動産投資は、「不動産を購入し、他人に貸すことによって賃貸収入を得る」行為(※)を指します。

「もともと持っていた不動産ではなく、賃貸のために購入した」というところが、上記のリロケーションとの違いです。

「不動産を購入して、売却する」や、「賃貸していた不動産を売却する」、「住んでいた物件を売る」という売買行為もまた不動産投資の一環です。
しかし、土地・建物(不動産)の売買は「譲渡所得」の範疇であるため本記事では扱いません。
譲渡所得については、こちらの記事(「譲渡所得とは|確定申告は必要か|税理士報酬の相場は?」)をご参照ください。

どちらのタイプでも確定申告が必要であることに変わりはなく、所得税の計算方法なども基本的には同一です。
したがって、以降、税金計算等の説明は両タイプに共通したものとなります。

不動産所得とは

上記のようなリロケーションや不動産投資(賃貸)などによって得られた利益は、税制上の不動産所得となります。

正確な定義は国税庁HPでご確認ください。

不動産所得の計算方法

所得とは簡単にいえば利益のことです。
個人の収入にかかわる税金である所得税においては、

所得 = 収入 - 経費

がほとんど共通の概念となります。

これは不動産所得についても同様です。
よって、不動産所得は

不動産所得 = (不動産賃貸にかかる)収入 - (不動産賃貸にかかる)経費

となります。

不動産所得の収入・経費

では、不動産所得に関する収入、経費とは具体的にどんなものでしょうか。

収入

まず収入について説明します。

収入の考え方は簡単で、基本的には賃借人からもらった金銭すべてが収入です。
家賃・駐車場代はもちろん、賃借人から徴収する水道光熱費やそれに替わる共益費もすべて収入になります。
ただし、敷金・保証金など、退去時に精算する(返還する可能性がある)ものは、返還しないことが確実になった時点の収入となります。

経費

不動産収入に対応する経費のことです。
国税庁HPでは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるものが必要経費と定義されています。

必要経費の基本的な考え方で重要なのは「直接必要な費用」と「家事上の経費と明確に区分できるもの」の2点です。

「直接必要な費用」に関して、よく間違えられるものの一つに、新しい賃貸物件を探すための費用があります。
新物件下見のための交通費や、オーナーへの贈答(交際費)、外部機関(紹介業者)への手数料などがこれにあたります。
これも不動産所得を得るための費用には違いありませんが、現在運用している不動産の収入には直接関係していません。
こういった費用は、「直接必要な費用」ではないので、経費とならないのです。

「家事上の経費」との区分問題は、例えば間貸し(住居の一部を賃貸)している場合などに生じます。
水道光熱費・固定資産税などが家屋全体・敷地に一括して請求され、賃貸部分と自家部分の区別が困難だからです。

だからといって、自宅の一部を賃貸したときに、これらを全く経費にできないわけではありません。
合理的な按分計算(床面積による按分・その他)を示すことで、これらを経費にすることが可能です。

経費については、以下もう少し詳しく説明します。

必要経費の例

不動産収入に対応する経費には、主に以下のものがあります。

  1. 減価償却費
  2. 借入利息
  3. 修繕費
  4. 固定資産税
  5. 保険料
  6. 管理手数料
  7. 振込手数料
  8. 税理士報酬

もちろん、これら全てに対して「直接必要な費用」であることと「家事上の経費と明確に区分できるもの」が求められます。

減価償却費と借入利息については、少し詳細な説明が必要です。

減価償却費|不動産(土地・建物)の購入価額は、即座に費用とはならない

まず、土地代は費用になりません。
土地は摩耗・減損しない資産だと考えていられるからです。
本当に減損しないのかという議論はさておき(実際に地価は上下する)、現状の税法ではそうなっています。

建物に関しては、購入価額がいきなり全額費用になることはありません。
数年~数十年にわたり、分割して費用に算入します。

この、分割した各年の費用が減価償却費です。

なぜ減価償却しなければならないのか。

例えば、1千万円(年間家賃収入500万円)でアパートを建てたとして、初年度にその1千万円全額費用になってしまえば、その年の収支は、大赤字です。
そして翌年からは大幅な黒字が続くことでしょう。
ですが、それは実態に程遠いので、建物の取得費(または建設費)を、数年~数十年(年数は建物の素材・構造などによって定められています)に分割して各年の費用とすることになっているのです。

借入利息

賃貸する物件を購入するために、銀行などから資金を借りることがあります。その利息は、不動産収入に対する経費となります。

ただし、不動産所得が赤字で、他の所得(給与所得ほか)と合計する場合などには、借入金の経費算入に特殊の制限があるので注意が必要です。

その他の経費

その他の経費について簡単に見ていきましょう。

修繕費

賃貸している家屋などの修繕に要した費用は経費となります。
ただし、賃貸する前に、賃貸のためにリフォームした費用は、建物の取得費用(上記の減価償却の対象)となり、全額を費用にするまでには数年~数十年を要します。

固定資産税

土地や家屋を所有していれば毎年、固定資産税を徴収されます。
この土地や家屋のうち、賃貸収入に対応する部分の固定資産税は不動産所得の費用となります。

保険料

不動産(特に家屋)を所有していれば通常、火災保険に加入していることと思います。
賃貸収入に対応する部分の火災保険料・地震保険料などの損害保険料の掛け金は、不動産所得の費用です。

損害保険料は5年~10年分を一括払いすることも多く、その場合は年数に応じて各年に分けて費用とします。

管理手数料

不動産会社に賃貸物件の管理などを委託していれば、管理料などを支払う必要があります。
これらは当然、不動産収入に対する費用と認識されます。

税理士報酬・その他

不動産収入にかかる税金の確定申告を税理士に依頼していれば、その報酬も費用となります。
また、家賃引き落としにかかる金融機関の手数料なども当然、不動産所得の費用です。

不動産所得の税金計算

不動産所得の概要はお分かりいただけたと思います。
では、肝心の税金はどのように計算するのでしょうか。

不動産所得は、所得税という税金の対象となる様々な所得の中の1つであり、所得税は、給与や不動産賃貸、個人事業などの様々な所得を合計したものから計算します。
そして、所得税は、その合計所得金額によって税率が異なる(所得金額が高いほど税率も高くなる)のです。

よって、不動産所得だけをもって税率が何パーセントなどということはできません。

所得税の計算についての詳細は、国税庁のHP「所得税のしくみ」や、「所得税の税率」をご参照ください。

青色申告と白色申告

個人の確定申告には、青色申告と白色申告の2種類があります。

青色申告手続・書類整備が煩雑などの手間がかかるかわりに税金が安くなる可能性がある
白色申告比較的楽な手続きで済むが、青色申告に比べて税金が高くなる可能性がある
※詳細は、国税庁のHPをご参照ください。

不動産所得の確定申告において、青色申告にすべきか、白色申告でもよいのかは、賃貸している物件の件数や規模、その他の収入の種類・金額などにより、総合的に判断することになります。

この点、専門家である税理士の意見を聞いた方が確実です。

青色申告をする場合には、
申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始したり不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日)までに届け出をしなくてはなりません。(詳細は国税庁HPをご参照ください。)

そのため、税理士には、なるべく早い段階で相談することが望ましいでしょう。

自分でできるか、税理士に依頼すべきか

既に顧問税理士との繋がりがある経営者の方などはもちろん、まずその税理士に相談すべきです。

ここでは、そうしたコネクションのない方が、不動産所得の確定申告をどうやって行うかについて考えていきます。

自分で不動産所得の確定申告をする方法

例えば、サラリーマンの方が副業で行う不動産投資について、確定申告を自分で行うことができるでしょうか?
検討していきます。

民間のクラウドサービスや国税庁のe-taxを利用する

近年は、各種ソフトウェアの機能が充実しており、不動産所得の確定申告に対応しているものも多くあります。

操作は年々簡便になっていますので、自身で不動産所得の確定申告を行うハードルは下がってきていると言えるでしょう。

しかし、どんなソフトウェアにも共通することとして、初期設定が難しく、税金の金額にも影響します。

これまで説明してきた収入や経費の区別・計上時期などについて、ソフトウェアが自動的に判別してくれるわけではありません。
ソフトウェアやe-taxで確定申告をする場合には、これらを正確に設定する必要があります。

この初期値の入力が非常に簡単であるかのような説明も見かけますが、そのような単純な例は実在しないと言っていいでしょう。

結論として、税金の知識のない方が初年度から自分だけで不動産所得の確定申告を行うのは困難です。
間違った申告をしたり、過分な税金計算をしてしまう可能性も大きくなります。

確定申告会場や税務署に行って、自分で申告する

どうしても自分で申告したいという方は、税務署や各地の確定申告会場で担当者のアドバイスを受けながら申告するとよいでしょう。

ただし、不動産所得の確定申告、特に初年度は必要な書類が多く、初心者が完全に漏れなく用意するだけでも大変です。
長蛇の列に並んだ後に結局、書類が不足していて申告書完成ができないなど、かなり骨の折れる作業となります。

初年度は税理士に依頼すべき

現状のクラウドサービス等の申告サービスは、未だ不動産所得のツボと言える初期設定(どこまでが費用か、減価償却資産とすべきかなど)を人間に委ねている状態です。

したがって、最低でも初年度の申告では税理士に介入してもらう必要があります。

介入してもらうと言っても、現実的には初年度の申告をまるごと依頼することになります。
申告は自分で行い、税理士のアドバイスやチェックを受けるというやり方は、税理士側の業務負担がかえって大きくなるため、あまり行われません。

2年目以降は自分で確定申告できるか

初年度、税理士に依頼して処理した物件については、難しい初期値の設定が済んでいます。

この場合、次年度以降は自分で申告できるでしょうか。

物件が1件だけで、管理を不動産会社に任せていれば、2年目以降の確定申告はあまり難しくない場合があります。

ですが、それには初年度の税理士の計算内容について熟知していることが前提です。

税理士は専門家目線で書類を作成します。
通常、翌年以降、税の専門家ではないクライアントが引き継ぐことを考えていないはずです。

そのため、2年目以降自分で申告するつもりならば、最初に税理士にその旨伝えておく必要があります。
この場合、税理士は翌年以降、クライアントが自身で申告できるよう説明資料などを追加で作成する必要がありますので、料金が多めにかかる可能性があります。

また、大きな修繕が発生したり、火災や地震による被害があるなど、費用の処理や税務上の取り扱いなど分からないところがほとんど毎年出てきます。

したがって、2年目以降もやはり、税理士に任せる方がより安全・確実です。

事前に相談を!

できることなら、不動産投資や賃貸を始める前の段階で税理士に相談しましょう。

事前に税理士に相談するメリットには、次のようなものがあります。

最も節税できる方法を考えてくれる

節税の方法は多々あり、税理士はもちろん熟知していますが、手続き上、売買や賃貸が始まってからでは遅い場合があります。
事前に相談すれば、できるはずの節税をしそこなうことはありません。

依頼すれば、利回りなどを別視点でシミュレーションしてくれる

不動産会社などが提示している利回りにも、充分な根拠があると思います。
しかし、税理士の分析は、より現実的でシビアな利回り計算になることが多いと思います。
リスク管理のために、投資行動に出る前に税理士にシミュレーションを依頼し、見比べてみることを検討しましょう。

不動産所得にかかる税理士の報酬・料金

不動産所得の確定申告にかかる税理士の料金は、おおむね0.5万~5万/1室です。

これはあくまで目安です。
物件の規模や内容などにより、この幅から逸脱することも十分あります。

また、上記で紹介した不動産投資のシミュレーションを依頼する場合の報酬は、これまた規模によって大きく異なりますが、1件あたり1万~数万円でしょう。

税理士の探し方

経営者の方など、既に顧問税理士がいたり、税理士にコネクションがあれば、まずはその税理士に相談しましょう。

不動産会社に物件の管理を任せている場合、その不動産会社から紹介してもらうのも一つの手段です。

上記どちらにも当てはまらない場合、ネットなどで税理士を探すことになります。

「不動産 税理士」で検索すると、お住いの地域の税理士がヒットすると思います。
こちらの記事(「24時間体制で相談を受けてくれる税理士事務所は? | 税理士に相談する方法や、相談する際の心得について解説します。」)などを参考に、相談してみましょう。

末松会計事務所でも、不動産所得の確定申告のご相談を承ります。
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末松会計事務所へのご相談は052-932-0007にお電話下さい。
平日9:00~17:30の間受け付けております。経験豊富なスタッフがサポートいたします。

まとめ:不動産所得の申告は、できる限り税理士に任せたほうがよい

不動産所得にかかる税金の申告は、節税の面でも、投資効率の面でも、なるべく早い段階で税理士に相談した方がよいでしょう。

特に初年度の申告は税理士に任せた方が、間違いや無駄な損失のない申告ができます。

不動産投資の計画段階で税理士に相談することができれば、税理士の視点からアドバイスを受けることができます。

不動産を賃貸に出す、賃貸用の不動産を購入するというのはどちらも大きな決断です。
できれば事前に税理士に相談して、安心してことをすすめるようにしましょう。

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この記事の執筆者

末松和真

税理士法人末松会計事務所代表社員。税理士。 (株)FLAGSコンサルティング 代表取締役 税理士として税務・会計はもちろんの事、経営支援・クラウド会計支援・融資実行・補助金に強く、幅広い知識とサービスで企業の成長を支援している